ダイエットのコツ
3.ダイエットのコツ
冒頭に書いた通り、ウチでは「河上から河下まで一人でやる」のが基本。社員として「やりがいのある」ユニークな方式だが、実を言うと、熟慮を重ねて考え出された経営手法というものではない。事情は会社設立の初期に遡る。
当時社員の「居付きをよくしたり・働き甲斐を与えたり」する為に開始したのではないのだ。むしろ逆。正しく言うと「(社長である)私の手を省く」為の、苦し紛れの策だった。
会社のスタート初期とはそんなものだが、当時私は一人であれやこれや「何もかも」しなくてはならなかった。社長と言えどもセールスマン兼用だし、ボールペン一本も自ら文具屋へ走って買いに行かねばならなかったし、カタログを作るためにカメラで製品の撮影も工夫して自分でやったーーー。家に帰れば幼児のオムツの交換も手伝わないといけない。当時は「無い無いづくし」で、社長は多忙。
通路が薄暗いから泥棒市場と呼ばれていたマーケットの中の、漬物屋の隣の二十平米のスペースを借りて、会社は細々とスタートした。配偶者とたった二人でヨタヨタしていた。が、ある時何を思ったか、この会社が急激に販売を膨張させたのである。ビッグ・バン(=宇宙の始まり)というやつ。
慌てふためいて一度に数名の社員を雇い入れた。普段から忙しかったのが、これで超多忙となった。猫の手も借りたい程だったが、猫は居ない。可哀想に、入社した新人達はロクに研修もされず、ほったらかしにされた。放任主義だ。
新人社員が指示を求めてやって来たら、「自分で考えてやれ、頭はその為にある。帽子を被る為ではない!」と、イラついた声で返された。 営業マンは入社後三日目に製品サンプルとカタログを持たされて、叩き出されるように顧客へ追いやられた。気の弱い男が出発前に怖気( おじけ)付いて「お客さんからこの製品の特徴を尋ねられたら、どう応えたらいいでしょうか?」とおずおず問えば、「行く途中で考えろ!」とキツイ声が飛んだ。
「あのう、昼食の予定は?」と問えば、「一回抜け、死ぬ事はない!」とダイエットのコツを教えられた。




