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◎第四十六話:「きつく押し込んで下さい」の話

◎第四十六話:「きつく押し込んで下さい」の話


1.壁は白いまま


 ウチには、世間の会社とちょっと違った処がある:下役・上役というのが無い。だから全社員が横並び。仮に若くても入社年数が短くても「部門の長」となり、上司に当る人がいない。強いて言えば私が最終上司になるのだが、管理は緩やかで、彼らも管理されている意識は希薄。


 ウチのような三十名程度の企業サイズなら(係長や課長が居なくて)当たり前と言えばそれまでだが、ちょっとばかり違う: 車の製造メーカーを例に採ると、Aさんは車の設計・Bさんは車体の鉄板の打抜き・Cさんはドアの溶接・Dさんは塗装担当・Eさんはタイヤの取付け。そして、それらが総合されて「一台の車が完成」する。最近はロボットが多用されていると聞くが、量産式分業だ。大量生産には効率がよい。これが普通の会社。


 がーーー、そこで働く人にとっては同じ仕事へ、丸一日繰り返し掛かり切りだから、「退屈だろう」というのが私の考え方。目先の変わった事もしたかろうよ。

 対してウチは普通の会社ではないから、こうなる:Aさんが、車の設計・鉄板打抜き・溶接・塗装・タイヤ取付けーーーの全工程の何もかもを「一人でこなす」やり方。一台の車の製造を、河上から河下まで「全部一人で」仕上げるようなもの。


 手分けしてやらないから、生産効率の面で言えば確かに能率が悪い。だが、作業者の「やり甲斐」が高くなる。もっとも塗装の剥げや梱包の僅かな不備でもあれば、客から飛んでくるそんなクレームも直接受けるから、大汗をかいて平謝りに自分で処理しなければならない。何せ、一台の車の全部に責任を負っているから、そうなる。


 緊張感もあり先のAさんは「退屈しないだろう」と思う。だから、そうしている:Aさんは一人で乗用車の全部を作り、Bさんはトラクターの全部を作り、Cさんはバイクの全部を作るみたいなもので、独立独歩。A/B/Cさんは、それぞれ別々の会社の「ミニ社長」みたいだ。


 私は会社という建物の家主で、ミニ社長達に活躍の場を提供している感じになる。こんな次第だから、社内は「一致協力・和を以って尊し・互いに助け合いましょう」の精神とは正反対。何故なら全員が独立していて、他人の協力が要らないから。そんな標語を壁に貼る必要も無いので、壁は会社設立以来白いまま。


 今のところこのシステムは上手く行っているようで、全員「嬉々・キッ!」と発狂するみたいな声を挙げて、張り切ってやっている(ように見える)。



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