何かある
2.何かある
会社の経営は、時にぼんやりした薄闇の中から真理を掴み取るような処がある。もう数年前になるが、パラノイアがそんな経験をした。
この頃そんな習慣は廃れつつあるが、当時ウチでは毎年七月に、世話になった顧客や販売店に対して、お中元を送る事にしていた。勿論、送る先の顧客から次の追加注文を期待する下心もある。
それで発送一カ月前の六月に、自分の担当地区で、お中元を送って欲しい顧客や親しい販売店があればリストを出せと、北海道から九州までの営業マン十数名に係の者がメールで通知した。
ところが、誰からも反応が無かった。メールが不達だったのかと思って、係は一週間後に再度同じメールを送信した。不思議な事にそれでも、日本中がシンとしていたから、係はかってない孤独感を味わった。お陰で今年はお中元代が大いに節約になるーーーと、これを係から聞くとも無しに私は耳にした。何か違和感を覚えた。朝のトイレで全部出し切らない感じだ。
それで、「昨年のお中元の時はどうだったのか」と係に訊ねると、昨年は八~十名から返事があったと応えた。 それでも全営業マン十数名から比べると多いとは言えない。気になったので、リスト提出を締め切った後で、主だった営業マン数人にそれとなく「リストを出さなかった理由」を尋ねてみた。返事は大体二つになった。
1. 忙しさに紛れてついウッカリ(リストの提出を忘れた)。
(→ お中元「なんか」忘れるほど小さな事柄だったのだーーー)
2.近年は、大手の顧客でお中元の受取りを拒否する処も増えているのでーー。
(→ じゃあ、小さな販売店や顧客はどうなんだろうーーー?)
問われたから、仕方なく応えた取ってつけたような理由ではあるまいか。更に係によく質して見ると、実は全国十数名の営業員の中で二名だけがリストを提出して来ていたのが判明した。 M君とN君だ。勿論二人のリストの顧客へはお中元を発送したのだが。 さらに調べて、この二名は係からの一回目のメールを受け取った日の翌日中にリストを送って来ていたのが判った。 メールではなくFAXで返事が来ていたので、見落とす処だった。
二名だけは、「折り返し」返事を寄越していた。これはむしろ自然と言える。ボヤボヤしていたら他人にお中元の予算を先取りされて、自分への配分が削られるかも知れない、兎に角大急ぎで予約を入れたいーーー、という気持ちが分かるからだ。
であるのに、大多数の残りの営業マン達は二度のメールを受けてもシンとしていたーーー。パラノイアは「何か匂い」を嗅いだ。 双方の違いには何かあるーーー。




