◎第四十五話: 蚊に刺された話
◎第四十五話: 蚊に刺された話
1.パラノイア
貴方も社長になりたいか? さあ成れるだろうかーーー。
法人組織が設立されてから(=独立起業してから)、倒産に到るまでの期間を最近国税庁がデータベースにまとめたものがある。企業存続率で、会社生存率とも言う。これに拠ると:
起業後1年以内の会社生存率:40%(=これは、六割が年内に倒産・廃業を意味する)
10年後:6%(=同じく94%がーーー、つまり「大部分」が倒産・消滅)
20年後:0.3%
30年後:0.021%(=99.98%が倒産・廃業・消滅してしまう)
これを見ると、会社(組織)を作ることは(年間25万件もあって)簡単だが、存続させていくのはとても難しい、と分る。99.98%が倒産と9が三つ並ぶのは、「三十年間存続」させるのは「殆ど不可能」を意味する。冷酷な数字だが、現実。
金が無かったサラリーマンから独立して、ウチは今年で三十二年目だから、99.98%の冷酷な数字を辛くもかいくぐって、頑張っている。
十年ひと昔なら、三昔前の起業だった事になる。当時は、ネットは存在しなかったが、スーパーはあったし、石油ストーブもあった。けれども期間中に、多くの銀行が統合も含めて消滅した。ダイエー・カネボー・日本航空も潰れる一方で、超大手の日立製作所や東芝などが巨額赤字を計上するなども起きた。他方で今やコンビニが全国に普及するなどし、又ネットは全盛時代だ。つまり、三十年で日本中に生活と経済上の激変が起きていた。
この年月にウチでは、赤字を計上したことは一度も無いし、社員に賞与がゼロ支給となった事もない。リーマンショックも切り抜けて無借金の健全経営を続けている優良企業だから、今の処ビクともしない(ように見える)。神戸市K村に存立しているが、この様子を眺めて、「K村の奇跡!」とウチの税理士がそう呼んでいる。
上手くやっている秘密は何か? 時々人に訊かれる事がある。「私はプロで、だからーーー(社員から)鬼と陰口を叩かれる経営をやっているからですよ」と応えたい処だ。けれども、ここで経営のノウハウを紹介しようとは考えていない。ノウハウを利用してウチのライバルが出来ても困るからだが、実を言うと本人にもよく分からないからだ。無論、税理士にも分からない。分からなくても構わない、誰も困りはしない。
ただ、私は非常に「神経質」な人間だ。これが経営に影響しているのは間違いないと思う。精神科医の言葉を使うならパラノイアと言うらしい: 冷蔵庫の扉を閉めた後で、庫内の明かりが「消えたかどうか」気になって、安らかに眠れないというやつだ。
そんなエピソードを一つ紹介したい。そんな処に、隠された経営の秘密があるかも知れない。




