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悪質な問題

5.悪質な問題


 話を会社の視点へ戻す: ウチでは非正規を社員として置かず、正社員としてしか雇わないと「決めている」。同じ社内で、正規・非正規という風に「人の差別」が横行するのを、好まないからでもある。


 多くの企業家が「非正規」を利用しているが、改善しようと思えばやれる権限を持ち、立場にあるのに、企業規模の大小に拘わらず、そんな自覚が無い。「他社がやるからウチもそうしている」と感覚が麻痺しているのだが、そんな彼らを私は内心で軽蔑している。それが名の通った、大企業であっても。


 大手の社長らが、春の正社員の入社式でもっともらしい訓示を垂れる。自社内に存在する非正規を横目で差別しながら、そんな二枚舌の光景は人として滑稽だし、春であっても会社の風通しは良くない。

 正社員達の労働組合も、自分たちの権利の事しか考えない。そんな社会制度を容認している政府も間違っている。企業家も政治家たちも、正社員の多くも決して「負け組」ではない。自分達に切実な問題ではないから、負け組の問題の理解が進まない。


 国際競争も含めて、企業間の市場競争が厳しいのは判る。会社の株主達も「もっと儲けよ!」と追及して来るから、企業経営者は平社員が考えるよりは大変なのだ。勝ち抜いて行かないと生き残れない切実さは、私も企業家の端くれとして、身にしみて判っている積もり。

 こんな時、一番手っ取り早いアイデアは「人件費の削減」なのも分かる。だから、「じゃ、非正規を使う事にしようーーー」と安易な手法に走り勝ちだ。けれども、人は物ではないのだから、自分が切実だからといって、弱い立場の「他人を搾取して良い」訳ではない。


 権力者たる経営者は人としての基本を忘れ、非正規は便利に使われ、平均給与は下がり続け、多くの人が幸せな生活から遠ざかる。若くしてキャリアを積めず、立場も弱いから非正規の扱いが改善される見込みは薄い。時代の流れと片付ければそれまでだが、だからこそ現代社会が抱える最も「悪質な問題」の一つと指摘したい。




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