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貧乏物語の分かれ道

4.貧乏物語の分かれ道


 翻ってーーー、考えて貰いたい。非正規社員に対してなら、会社がそこまで時間と金を掛けて本気で「鍛えようとするか」である。いつ辞めるか知れない者に対して、やる筈が無いじゃないか! 


 先に書いたように、非正規には収入の不利という経済の問題が一つある。が、それより重要な点は、若い大事な時期を「非正規のまま通過」すると、言い換えれば「まともな仕事」を与えられないと、いわゆる「キャリアを積む」事が出来ない。見過ごされ勝ちだが、これは学歴の違いや差以上の落差が生じる。物の見方を含め多分人間的な上下格差さえ起きると、経験から私は見ている。一時的な給与の多寡より、若い時には一層重要な問題だ。


 人は永久に青年ではなく歳を取る生き物だが、この当たり前を人は忘れ勝ち。例えば幾ら親切でも、年若い人が、自分の父親に近い年齢の人を赤ペンで「手酷く添削・指導」してくれる筈は無いじゃないか! 他人だって忙しく、年寄りを指導してくれるほど暇じゃない。キャリアを積むべき「時期・タイミング」というものが、人生には必ず存在する。


 初期のキャリアの「後れ」は生涯取り戻せなくなる。初職で非正規だった人の多くが、生涯非正規と成ってしまう確率が高いのは成長出来ないからで、この事例を私は多く見て来た。若い時の苦労は「買ってでもせよ」とはこの事。多くの人が気づかないが、ここが貧乏物語かどうかの分かれ道となり、キャリア不足の為に「成功」はおぼつかない。

 ここで言う成功とは、何も社長になったり部長に出世する事を言うのではなく、社会の下部層から抜け出られなくなるという意味。


 何年か前に(不景気な為に)就職氷河期といって、多くの学生がまともな就職先を得られなかった時代がある。彼らの多くが「(若い時代に)キャリアを積めなかった」のを、気の毒に思う。成長出来ず根無し草となり、当時の卒業生の多くが労働市場を今も(非正規として)放浪し続けている。

 気付き難いが、これがそれぞれの人生を仕組んでいる「舞台裏」だ。非正規の隠れた問題で、時代が変わってもこの基礎は変わらない。


 造船工学・大学卒業→大手T社入社→外資系会社へ転職→失業→喫茶店の開店で失敗→食い詰める→学歴を捨てセールスマンで再スタート→解雇→ドイツの会社と合弁起業→社長と、私は並みの人より多くの辛酸を舐めた。思い返して、この長いプロセスの要所要所で事あるごとに私の困難を救ったのは、学歴でも学校の造船工学でもなかった。

 それは、T社で数年間みっちり鍛えられたピーチクパーチクの雀みたいな「語学」と「ビジネスのやり方の基本」であったと申し添えたい。私は(=ウチの会社は)現在、英国・ドイツ・イスラエル・カナダとほぼ毎日国際取引をしてやっている。これが「キャリア」の結果なのは言うまでもない。造船工学と何の関係も無いーーー。


 ウチで営業員を募集することがあるが、そんな時五十を越えた応募者も来る。履歴書を眺めて、「光る処」の無い人が多い。営業なら資格も要らず「誰でも出来るだろう」と気楽に考えての応募らしいが、大きな間違い。

「若い時、貴方は何をしていましたか?」と、面接をやりながら尋ねたくなる位で、リュック一つで海外を放浪していたのだろうか。


 ヘタを漕ぐと先のインストラクターのあんちゃんM君は、生涯根無し草の「負け組」となってしまうリスクが高い。「非正規」の蔓延する今の社会構造が未熟な若い人たちを「蝕ばんで」いる。




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