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目で舐めるか舌で舐めるか

3.目で舐めるか舌で舐めるか


 さて私はこの歳になっても、毎日会社へ出勤して仕事に熱心。が、金の為にはやってはいない。十二時のチャイムが鳴り昼休みに食い込んでも、ペンを置かない事も多い位の熱心さ。昼食は近所の店で、ダスキンのドーナッツ一つとコーヒー一杯で合計324円。元都知事の舛添要一さんみたいは、これを会社の経費では決して落さず、領収書も貰わず自腹。


 だから金の為に働かず、清廉潔白、金などちりあくたな状況な訳だ。女も遠ざけており、美人の事務員が流し目を作って傍に寄って来ても、お尻に触ったりなぞしない。せいぜい横目で舐めるように眺めるだけで、実際に舐めもしない。人から見ても自分で考えても、聖人君子・枯山水の風雅な絵画みたいに上品である。心境は百年修行を積んだ高僧に負けず劣らす、仙人みたいに澄み切った心境。


 そうだとしてもーーー、若い人に相対する時には、心境とは「正反対のウソ」を語ることにしている。こんな風に:

「ここは天国じゃないんだ、世にラクな事などありはしない。人を押しのけて良い学校に入れ・運動会のリレーでは一等賞を取れ・出世しろ・金儲けしろ・女はだますもの(女なら男をだませ)、出来れば複数の方がいい。君、それらに向かって邁進し給え!かっての、私のようにーーー。それが一番素敵な人生なのだよ」


 そう言ったら、甥っ子は興奮気味に力強く応えました:

「今となっちゃ学業の面はもう手遅れですが、伯父さんを真似て、僕も今後頑張ります! 機会があれば、少なくとも恋する女は二人、いや三人にします」


 これでいいのだ: 彼はこれから人生を「生々しく」生きるのだし、こっちはこれから「清らかに」死ぬるのだ。若人と老人、歩む道が互いに正反対な方向なのは当たり前で、間違っても同じ道である筈がない。お尻を目で舐めるのではなく、しっかり「舌で舐めなさい!」。


比呂よし



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