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相いまみえる

++++若い時分これに接した時、強い感銘を受けた。人生を模索していた私にとって、「凄い言葉」に映った。くそ真面目だったから、「鬼十則」を実行しようと心がけた。(サラリーマンとして)出世したかったからだ。


3.相いまみえる


 けれども正直に言うと、残念ながらついに実行し切れなかった。精神的にしんどくなって、途中で投げ出してしまい、降参したのである。鬼十則を書いた社長は偉い人物だったんだなとつくづく敬意を表しつつも、だから、自分は出世出来ない男だなと、がっかりした。


 やがて何時しかこの言葉は、完全に忘れはしなかったが、私の意識の底の方へ移動して行った。年月とともに、「ああ、知っているよ、そんな言葉があったけーーー」の程度になった。


 更に年月が過ぎて、経緯は省くが、私は会社を作り経営者になった。

 そして五十を前にして、再び 「鬼十則」と正面から相いまみえる機会を得た。仕事の心構えとして、自社の社員に与えるべき規範となる言葉は無いものかと探していて、再会したのだ。「ああ、こういう言葉があったな」と思いつつ改めて読み直したのである。何十年振りかであった。そして、意外に感じた。


 若い時にあれほど強い感銘を受けたのに、少しも感動しない自分が居るのを発見して、自身で驚いたのだ。同じ「鬼十則」の言葉が砂を噛むように妙に白々しく味気が無かった。暫く考えて理由が分かった。判ってみれば、手品のタネを知った気がして、世の中に神秘はないのだと気が付いた。


 例えば、こう言えようか: 

 誤って海へ転落したとする。貴方は泳がなければならない。泳ぎが下手でも、上等の衣服が台無しになるとしても、水が氷のように冷くても、例えカナヅチであっても泳がなければならない。でないと、溺れて死ぬから。泳ぎはこの時貴方の「唯一の仕事」であり、しかも「切羽詰まった仕事」だ。だから、(人に言われなくても)やる!


 会社の経営者の立場はこれと似ている。経営者は誰かの指示を受けて仕事(=泳ぎ)をやるわけではない。自らの仕事(=泳ぐ事)を創り出す。でないと、「溺れてしまい」経営者の地位に留まれないし、第一会社が潰れてしまう。「仕事は自ら創るべきもので、与えられるものではない」の鬼十則の第一則は、経営者にとって「当たり前」過ぎる言葉。だから、先に「味気ない」と述べた。


 第二則の「自信を持て」も、自信が無ければ経営者はどうして競争に打ち勝って社員を引っ張って行けようか。「ねえ、どうしようかしらーーー」の不安であれば、誰もついて来はしない。経営者は人一倍自信の塊だ。だから、(経営者には)第二則も「当たり前」過ぎる。こうしてみると、今の私は(言われなくても)鬼十則を毎日実行するのが自らの仕事であり、(会社を潰さないために)そうやらざるをえない。


 人から見れば、第三則にいう通り、私の仕事振りは多分「迫力も厚みも」あるのだろう。けれども、それが自分の身過ぎ世過ぎであって、「凄い!」事でも無ければ「格別の事」でもない。 海に落ちって必死で泳いでいるだけ。そうして毎日泳いでいる内に、身に付き慣れて、むしろ泳ぎが自動的に易々と出来るようになっている。だから、十則を眺め回しても少しも感動する処が無かったのだ。




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