◎第三十話: 「グルになる」話
◎第三十話: 「グルになる」話
1.彼が動かない
写真なども送信出来るし、今やインターネットメール全盛の時代である。が、ビジネスの世界では、まだまだ十分郵便やファックス(FAX)による通信が生きている。領収書・請求書の交換は郵便でなければいけないし、その為に記念切手も売っている。相手から来たFAXへ、こっちでちょこっと手書きで追記して打ち返す方が、パソコンでキーボードを叩いて返事するより、迅速な場合も多い。
ビジネスで多用するDMにしてもそうだ。一時はDMもネットメール全盛になるかの勢いだったが、昨今「ウイルス感染」のリスクが増大した結果、敬遠されている。例えば私なんか、メールで受け取るDMは社内のサーバーで「スパム」と判定され、自動的に削除されてしまうから、DMの用を成さない。という訳だから、案外元の郵便・ファクスの時代へ逆戻りするのではないか?
ところで、先の「No.23『ばかしあい』の話」で書いたが、会社が人事募集を行うと、近年は多少とも精神障害のある人の応募がある。正常と異常の「境目の人」の数の応募が増えた、と書いた。完全な異常ではないが、やや個性が有り過ぎる人だ。けれども、私は案外そんな人へ好意的であると書いた。自分にもややそんな気( け)が有るからだろう、とは配偶者の弁。
入社したてのウチの若い女事務員だって、怪しいものだ。姿がスマート。普段から栄養失調気味だが、FAXを使う名人である。多分、ソレが好きなのだ:
A女: 社長、「彼」がまた動かないです。
社長: Fax機の事を「彼」と呼んじゃいけない、と以前に注意をしたろうがーーー。ヘンな錯覚を起こすじゃないか。動かないのは、回線が混み合ってるせいじゃないのかい?
A女: どうも回線のせいではないらしいんです。
社長: ーーーー? 急ぐなら、隣の部屋の別のFaxが有るから、使って見たらどうかね。
A女: 「彼女」もダメです。それにーーー、そんな事をしたら「彼」のプライドを傷つけますわ。
社長: ーーーー? やってみなけりゃ分るまいが、隣室のFaxを使ってみなさいっ!
A女: やって見なくても分かりますわ。彼ら二人は、グルなんです。




