一番マシ
+++++ 一つの組織に頭が二つあっては上手く行かない。大抵の男が会社では嫌というほどコレを知っているが、家庭内では忘れるのだーーー。
5.一番マシ
小いながらも会社を長年一緒に経営していると、女は財務部長兼専務だから、三百六十五日朝から晩まで席は私と隣同士。仕事を初め、昼食も、夕食も、買い物も一緒。新婚時代ならいざ知らず、実はこの「何もかも」二人一緒が問題。
考えてみなくても分るが、世のサラリーマン達は天国だ。昼間は少なくとも八時間、地球を離れて宇宙空間で伸び伸びと自由と開放感を満喫出来る幸せがある。宇宙には「未知との遭遇」もあるから、不倫だって簡単で、人生は天国・天国。が、こっちはそうは行かない。
女は会社の金をがっちり握り、会社と社長を動かしているのは、他ならぬ自分だと信念している。こっちは、何時も揺り動かされている。けれども、女が握っている金など、元々販売部門担当の私が稼いものだし、こっちは何と言っても大社長という名刺が手元にあり、相手はたかが専務。
ランクの違いがはっきりしているのに、口の立つ女は「社長」へよく逆う。双方我の強い人間同士だから、権力闘争に明け暮れ、しょっちゅう正面衝突。正面衝突は相手が居なければ、絶対に起きない事故だから、先ず相手を「無き者」にしようと双方が同じ事を、同時に思いついた。死刑制度が今よりもっと緩やかな時代である。
「無き者にする」実行直前に念の為再考したら、そうなるとーーー、相手より自分側の損失が「著しく大きい」と、これまた双方が損得勘定で再計算した。結局「一番可愛い」のは他ならぬ自分だと分かった。殺したいほど相手が「諸悪の根源」なのに、外のより「一番マシ」と判明。
こうして、二人が共に未だに生きながらえているのは、「マシ」同志だから。




