◎第二十九話: 「殺し合いを防ぐ」 話
◎第二十九話: 「殺し合いを防ぐ」話
1.古池の鯉
老人人口の増加は、労働者の「非正規問題」に並んで、切実な社会問題の一つ。ここでは前者を取り上げる: 老人問題の元凶は、大半が定年退職した男にある。丸一日べったり家に棲み付かれると、これが女には難儀。
私の友達D君の実話:
大阪熊取市に棲んでいるが、定年退職後十年が過ぎて、という事は、七十になった彼は「これからは人の為に尽くそう」と殊勝な決心をした。地域のボランテイア活動に専念。確かに感心だ。
けれども、女には分かるまいが、昼間のボランテイア活動だけでは使い切れず、幾つになっても使い残した精力を「持て余す」のが男。自宅で夜も更けて、自分の歳を棚に上げて女へにじり寄った。古池を占領するでっぷり肥えた鯉みたいに、どろんとした目を動かして、「やろうよ!」なんて不埒な事を迫った。背筋を凍らせて女はびっくり仰天。シッシッ!と追い払った。
夫婦間で、乱闘事件が起きて当然。「この歳で、誰がからみ付かれたいものか!こっちは電信柱じゃあるまいしーーー」というのが女の本音。ボランテイアは良いとしても、男が発する対話と言えば「やろうよ」のたった四文字しか知らない言葉の貧困振りも、女には聞いて呆れて、大いに癪に障るのだ。
因みに黒川伊保子(学者)によれば、家庭内で男の発する言語で、女が想像以上にムカツク双璧は:
①「言ってくれれば、やったのにーーー」(= 手伝わない夫)
②「何怒ってんの!?」(= 目に険を含んだ女の前では、絶対に禁句。「原因はお前だ!」と内心で怒っている女へ、油を注ぐ)
これに、夫の定年退職後に③「やろうよ!」が加わる。




