◎第二十八話: 「赤面症」の話
◎第二十八話: 「赤面症」の話
1.ウソつけ!
実は、私はこの歳になっても赤面症である。シャイではにかみ屋。今まで私の書いた如何にも厚かまし気な文章の数々を読まれた向きには、信じられないだろうが「事実は小説より奇なり」とは私の事。
私は元々技術屋であったが、事情があって営業の仕事も経験しているから、人を「たぶらかす」術に少々長けている。かっては業界でトップセールスマンとして腕を鳴らし、現在経営している会社では「鬼か蛇か!」と人に恐れられ、週ニで通うスポーツクラブのプールサイドでは、腰のくびれた「イルカと俳句の女」二人に色目を遣いーーーとなっている。 そんな姿を見て、赤面症なんて「ウソつけ!」と言われても、確かに仕方がない。
直ぐ赤くなってしまう。 この為に人に誤解される。ウチの女事務員と何か仕事の話をしていて赤くなり、私の方から目を逸らす時がある。断じて、ホテルの話ではなかった。そんな時、「赤くなる現象」を不審に思うのか、信じられないという風に彼女は「じっと」こっちを見詰める。
人の顔、特に上司の顔を見詰めるのは失礼に当たると思うのだが、そんな時の女は実に意地悪で執拗に見詰め続ける。私は一層赤くなってしまう。彼女はきっと「社長は私に気がある」と勝手に誤解しているに違いない。「有給休暇取得に際する交渉」も含めて、日頃この女が私に対して案外強気な態度に出るのは、このせいだと思う。赤面症の不利な点だ。
数年前通って学んでいた町中のマッサージ学校では、同級生全員が若い女性であった。授業中に先生から私へ質問か何かされて、全員が私に注目した瞬間、(六十七の歳で)私がはにかんで赤くなった。これを眺めて、「ウッソウ! 信じられなあーい!」と、「キャハハ族」の若い女達にからかわれた経験が何回かある。
自分の配偶者なら安心かというと、これがそうでもない。自宅で話をしていて、何かの拍子に、本当に何かの拍子なのだが、叱られた子供のようにもじもじして赤くなってしまう。この様子を見て、「ヒーチャン(=恥ずかしながら、私の名)って、得ねえーー!」と最近も言われた。 配偶者の言う「得」とはどういう意味か、その時には私自身が「もじもじ」の取込み中なものだから、毎回よう尋ねない。
生物進化論では不利な形質は、長い年月を経て淘汰される。男の赤面症が、人類の発展や生存に不利なものなら、それは消滅して現代にまで残存していない筈である。現代まで淘汰されずに残って「赤くなる」のは、やはり「得」な面がある為だろう。私としては早く「得」をしたいものだと思っている。




