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投降を促す

4.投降を促す


 私はこれを眺めて、女が人事課長に 「男」を重ねて見ている気がした。彼女を傷つけまいと思って親切に書いた私のメールが、誤解を起こしたようだ。いや、暖かい言い方をすれば、ひょっとしたら重ねているのは 「お父さん」への思慕かも知れない。母子家庭で家庭に父親が居ないのかーーー、そんな憶測をさせた。


 私は辟易した。 一つ扱いを間違えると、思慕の念十倍、裏切られた時の憎さ百倍になりはしないかと、心配になったのである。会社の本社は神戸にあって私はそこで業務しているが、所在地を彼女は知っているのだから、自分が住んでいる東京から新幹線に乗って、襲うが如く押しかけて来る事だってあり得る。


 とにかく先に製品の宣伝活動を止めさせなくてはならない。私は考えた末、やはり丁寧な物腰は少しも崩さず、しかし「敢えて短く」もっとも無味乾燥でスーパードライな返信をした:

「繰り返します。そんなことは止め下さい!」

 立て籠もっている犯人に、拡声器で「投降を促す」みたいだ。これが利いて、やっと事が収まった。やれやれである。


      *


 後日、この話を同じような年頃の、私が親しくしている女友達 「35歳バツイチ子持ち昆布」に話した。彼女は黙って最後まで聞き終わってから、バッサリと切り捨てた: 「バカな女よーーー」

概して、いや、特に美人は同性に対して手厳しい。

 

 冷たい言葉に私が訝しげな様子を見せたら、彼女は探るように私の目を覗き込んだ。ため息を付くようにして加えた: 「仕事で男は女を人として見ずに、女としてみる」

 私は悪さを見つかった子供みたいにバツが悪く、何か叱られた気がした。が、同時に女の底に隠れている嫉妬に感づいた。


比呂よし



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