◎第二十三話: 「そんな事はしてくれるな」の話
第二十三話: 「そんな事はしてくれるな」の話
1.冷血動物
最近ウチでは、営業マンの人事募集を実施し、過去三ヶ月で20名の応募者があった。全員に応募の都度順次 「A4五枚の試験問題」をメールで送信した。返して貰った順に採点し、一定以上の得点の人に絞って、面接を実施。最終的に3名を採用した。
結果として15名以上の応募者が不採用に泣いた訳だが、それらの人達へは不充分だった点を指摘し、不採用の理由をいちいち知らせた。筆記試験でそれなりに時間と労力を取らせたのだし、真剣に問題に取り組んでくれた筈だから、不採用であっても礼儀を尽くすのがウチのやり方。出来れば他社の試験を受ける場合に、参考になればーーーという老婆心もある。
そんな几帳面な私を見て、おせっかいな社員も居る: 「応募した相手とは、どうせ二度と接点はないのだから、 「不採用」の三文字を連絡するだけで充分じゃないの?」と。
会社経営で、私は割にドライで合理的な手法を取っている。「冷血動物・鬼か蛇か」と社員から陰口を叩かれる。私に言わせれば、だからこそ、設立以来三十年以上の社歴を重ねる事が出来ている、と言いたい。普段のそんな姿を眺めているから、不採用者に対しての振る舞いが「私らしくない」と映るのだろうか。
けれども、本当はソレが「最も私らしい」。不採用者に対して、冷たくしたり蹴飛ばすようなマネをようしない。昔サラリーマン時代、自分に失業という苦しい一時期があった。だから、不採用の通知で落ち込む当人だけでなく、その背後に縋りつく家族の落胆する気持ちが、見える気がするのだ。励ましたくなって、冷血動物らしくなくなってしまう。
気持ちが相手にも伝わるらしく、不採用の通知を受けた中の約六十パーセントの人たちから、かえって丁寧な礼状がメールで届く。内容は大概数行の簡単なものだが、それを読むと少し救われた気持ちになる。




