表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/1653

どうしているか?

+++++まあよい、それほど優秀なら、ウチで研究開発の仕事に専念させて、給料を特別に再考しても構わない。兎に角面接をやろうと考えた。


6.どうしているか?


 面接をした:彼の年齢とキャリアを考えるなら、月十万円の給料は世間相場の1/3以下になる。普通誰もこんな給与では働かない。が、会社の提示する条件で構わないと、本人は言う。実家には財産があるから、それで十分食えるのだ。給料の額よりも、自分に「向いた好きな仕事」を選びたいのだと、穏やかに希望を語った。ただ元々体が丈夫でないので、フルタイムの勤務は無理なのだと説明した。


 面接の印象は悪くはなく、三十三の歳の割には「性格が善良で、何処かしら初心うぶな人柄」という感じで、要するに「とても感じがよい」。相手が男ながら、彼の誠実さにこっちが好きになる位である。内心で、私は採用を決めた。


 面接が終了し彼が帰って一時間以内に、メールで給与を含めた条件などこまごまと詰めた説明を加えた上で、採用を連絡した。そして自動的に(毎回そうする通りに)「但し、精神科で一年以内に治療の経歴があってはいけない。後日でもこれが判明した時には、その時点で即日解雇となります」と、加えた。これは定例文書として自動的に付加される文言である。


 同日中にメールで返信が来た:

「連絡有難うございます。ですが、採用を辞退します」

 驚いた。断るのは、ウチと他社を両天秤に掛けて応募し、有利な他社へ決めたのかと思い、直ぐ電話を入れたら、「一年以内に治療の経験があるからーーー」と、申し訳無げに応えた。


 薬を服用していたとしても、面接時の良い人柄が印象に残っていた。それで、翌日の再来社を私は求めた。話し合おうとしたのである。精神的に人と上手く付き合えないのなら、私の直属の部下にしてもよい。他の社員と接触したくなければ、別になった実験室があるから専用に与えても構わないし、体調が悪い日には労働日数を調整してーーーその分給与を減らせばよい事だから、と柔軟に考えたのだ。私は彼の「優れた頭脳が欲しい」と思った。

 それに、多分何処も受け入れ先の無い彼の能力を生かしてやりたい、という正義感みたいな気持ちも混じっていた。


 結果を言えば、不採用になった: 共同経営者の私の配偶者がこれを知り、アレルギーを起こしたみたいに顔を強張らせ、「徹底して」反対したからだ。私は説得を繰り返したが、会社を大きなリスクに晒すとして、ガンとして受け付けなかった。「私が殺される」とでも言いた気だったが、彼女の言うのが正論には違いなかった。採用を諦めざるを得なかった。

 面接時の印象が(くすりで)「作られたもの」だったとしても、今でも私は暖かい気持ちを持っている。彼は今頃どうしているか、と思う時がある。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ