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他の悩ましいケース

++++腹を空かせて待っている子ツバメもいるーーー。「お父ちゃん」の立場を思いやると、損害も含めて腹立たしくありながらも、私は泣けて来るのである。


4.他の悩ましいケース


 以下は無論正社員のケースである: 他にも、昼飯にカレーライスを腹一杯食って、食ったそばから食った事実を忘れて、何杯もお替りを重ねてパンクしそうな勢いの若いのも居た。 別な五十前の男の場合は、地方へ一泊の出張を命じた所、営業車に寝具一式を積み込んで出かけようとした野宿専門の極端な貧乏性も居た。 勿論宿泊費は事前に与えてあるのに、だ。


 もう一人別な三十一の男は独身だが、あがり症だった。入社二ケ月を過ぎた頃だった。ベテラン営業員に同行して一緒に顧客を訪問させた。名刺交換して挨拶をしたが、それがバカ丁寧だったので、顧客が恐縮して「僕は天皇陛下じゃないから、そんなに丁寧な物言いをしなくて構わないよ」と言った。


 この破格な好意がキケンである。顧客の前に立って緊張しきっていた男の気持ちを、心底ホッと「解放させた」のだろう。血の池地獄から、いきなり天国へ配置転換されたようなものだから、彼は異常に感動して舞い上がった。その場で、ざっくばらんな砕けた態度へ急変したかと思うと、いきなりベランメエ口調で語り出したから、名刺を貰った顧客が腰を抜かした。

 男には「丁寧」と「乱暴」の間の、「微調整が利かなかった」のだ。翌日辞めて貰った。


 別の中年の男は入社後十カ月たって、仕事に慣れた様子なので、出張に行かせようと考えた。その直前までどこから見ても全く正常に見えた。神戸から名古屋に一泊二日の出張を命じて送り出した所、3-4日も音信不通となった。捜索願を出しかけたら、5日目に戻って来たが、営業車に土産物屋を開店出来るほど名古屋の名産をぎっしり満載していた。

 不審に思って本人に訊ねると、隣近所と親戚に配るためと称したので 、超まじめな「義理堅さ」に仰天した。


 心配になって、会社から自宅へ帰るのにこれから更に十日も掛かっては大変だと思い、別の社員に運転させて、本人を自宅まで車で送り届けた。玄関先に現れた奥さんがそれほど心配した風でも無しに、「まあ貴方、又なのーー?」と言った途端、男は「お母ちゃん!」と言って抱きつき、ワアと泣き崩れた。送り届けた若い社員は再度仰天した。奥さんのやりきれなさを思うとーーー、これも泣ける話ではある。


 また別の、入社後数カ月もたった四十過ぎの新入社員。昼休み時、持参の自分の昼弁当をちゃんと済ませているのに、「ああ、お昼か、腹が減ったな。昼弁当を買って来ようーーー」と独り言をつぶやいて、外出した。買って来た昼弁当を再度食い始めた。挙動がおかしいと思って用心していたら、ショーペンハウエルがどうとか、業務中ブツブツ哲学的な独り言をつぶやいていると、女事務員から注進を受けた。これが決め手で、解雇の通告をしたら、本人は素直に応じた。


 それからが問題で: 六ケ月後に、市会議員の選挙に立候補している本人の顔写真を眺めて、社員全員が仰天した。うまい具合に当選しなくて実に良かったと、我々は胸を撫で下ろしたものである。落選後、選挙カー・スピーカーその他諸費用を踏み倒して逃げたーーー、と新聞で後日談を読んだ。


 中には、会社に異常を知られる前に、自分から進んで辞める人もいる。後日入院を伝え聞いて「ああ、そうだったのかーーー、やっぱり」と、思い当たる事もある。先の稿で書いたが、同志社大卒の超優秀だった「めちゃ面白い!」の彼女も、その内の一人だったかーーーと思う。辞めた理由の真偽は未だに分からない。


 上の他にも、車に出刃包丁を隠し持って居た危険人物も居たが、模倣犯を招いてはいけないので、ここではそんな例は敢えて省く。

 これらのケースは、第三者が聞くと「まさか!」と思うだろうが、ウチでは「またか!」なのだ。どの話一つをとってもノンフィクションである。ウチのような小・零細企業は劣化した(?)人材の「吹き溜まり」となっている。裁判所を含めて多くの人が知るまいが、悩ましい現実である。





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