一番困る
++++どうしてそこの社長は貴方を手放したの?」と、つい突っ込みを入れたくなる。適度なウソと不道徳のお陰で、世の中が円滑に回っているとは思うが、面接試験ではこれが邪魔になる。
3.一番困る
一番困るのが、精神に「少々」障害のある人が応募に来る時だ。ウツの人も、困る。先に「少々」と書いたが、平たく言えば正常と異常の「境目の人」で、完全な異常ではない。実は近年そんな人の応募の割合が(ひと昔前に比べて)「明らかに」増えて来ている。 ストレスの多い複雑な社会を反映してか、それとも昔に比べて人間が柔くなっているせいか。
これは決してそういう人達を、私が軽蔑したり非難している訳ではない。なぜならもっとも苦しんでいるのは、当人自身だろうから。 ただ、利益を追求する企業経営者の立場になると、困ってしまう。
知的能力が低い訳ではなく、話すことはむしろ充分理知的だから、面接する側は騙されてしまう。本人は用意周到・念入りに準備して面接に臨んで来るが、こっちは(まさかと思うから)油断している。面接では絶対に見抜けない。
服薬で普通の人よりもハイな精神状態に保っているケースが多い。だから、面接時に案外調子が良いのだ。ハイを見て、「とても熱意ある明るい人だな」と当方が勘違いするのは当然で、それで雇ってみると数ヶ月後にどえらい目に逢う。
知らずに本人を叱ると、病状は悪化する。作成した報告書の字がチマチマと余りに小さく読み難かったので、「もっと大きな字を書け!」と女事務員が本人に勢いよく注意した。これがよくなかった。突然切れて、A4一枚にたった5文字しか収まらないような巨大な字を書いて寄越した。本人は注意に対して 「超まじめ」に反応したのだ。
仰天した事務員は、以後男を中心に三米以内へ寄り付かなくなった。心の中に他人に判らない闇の部分がある気がして、確かに怖い。
防衛のしようがない処があり、採用後に会社として対応に苦慮し、特にウチのような小企業では重大な問題になる。過去十年に、そんな「境目の人」を次々七~八名も正社員として雇って、その都度手痛い目に会っている。一旦雇うと会社は「病気を理由」に社員を容易に解雇出来ないからだ。
例えば、ウツ病を入社以前から発病していた筈だのに、本人はウソを付くし、(個人情報保護というヘンな法の為に)会社では発病時期の特定が出来ない。入社して会社がガンガン過酷なトレーニングでしごいた(=これは事実ではないのだが)から、「それが為にウツになったのだ」と言われてしまえば、先ず反証が出来ない。
たちが悪いのは、かかりつけの精神科医も責任を取りたくないから、当方が病状の詳しい説明や過去の経緯を尋ねても、(個人情報を盾に取り)黙秘権みたいにダンマリになる。医者もやましい所があるからダンマリになる訳で、これって、ズルイよな。
始末に負えず、誠に理不尽な話だが、入社後たった数カ月だのに、泣く泣く本人に100万円の大金を払って、穏便に辞めて貰ったケースもある。最高裁まで行くよりは安い。
こんな人は、味をしめて次の会社でも同じ事をして金をせしめ場合がある。 「お宅ではどう始末をつけたのですか?」と次に移った会社の社長から、手に余って電話で相談を受けた事がある。「100万円を払ってやりなさい」と私がアドバイスしたら、社長は絶句していた:「ウチにそんな金は無いーーー」
雇う側としては騙された気がして腹立たしいが、金をせしめる当人としては、元々就職口が無いし勤めても長続き出来ないから、そうでもしないと「食って行けない」のだ。家には家族があり、黄色いくちばしを開けて腹を空かせて待っている子ツバメもいるーーー「お父ちゃん」の立場を思いやると、腹立たしくありながらも私は泣けて来るのである。




