◎第二十二話: 「ばかしあい」の話
第二十二話: 「ばかしあい」の話
1.息をしているか?
ウチでは全国に営業所・出張所があるので、増員や欠員補充の為に、時々「営業マン」を「中途採用」する。そんな時ネットで募集を出すし、勿論ハローワークにも出す。日に日に名声を高めてはいるものの、ウチの知名度がイマイチで、なかなか思う人材が得られない。
採用条件は簡単で、男女不問・年齢不問・学歴不問・経験不問。 これなら、息さえしておればOKみたいだが、実の処は「製品を売ってくれるかどうか」だけである。 だからこそーーー、試験はとても難しい訳になる。
「とても難しい」と書いたが、これは応募者のパスするのが難関という意味ではなく、会社側の目線で人材の選択が容易でない、の意味である。間違って「ロクでもない」のを雇ってしまうと、会社は大損害だからだ:
年齢性別に関係なく、(営業マンの場合)初任給は30万円に決めてある。けれども、ご存じだろうか? 年金・社会保険料の雇用側負担分・交通費などの諸経費を含めると、会社は約1.3倍の月に40万円近くを払うハメになるのだが、案外一般の人はコレを知らない。
もっとも、こんなハメに逢うのは実は社員側も同じで、30万円の給料を貰っても社会保険料や所得税を天引きされると、手取りは二割レスの約24万円程度になってしまう。けれども、今回は社員の話をしているのではなく、会社側の話だから先の40万円を優先的に考えて頂きたい。
採用されると、本人は製品の事を何も知らないのだから、当初数カ月は何の仕事も出来ないし・しないのに、会社は給料を払い続ける。まるで慈善事業だ。仮に本人の事情で(=社長の顔が気に入らないとかで)3ケ月で辞められると、会社は120万円(40万x3ケ月)がパアになる。
この損を取り戻そうと思えば、1200万円以上の製品を余分に販売しなきゃならないのに相当するから、大変だ。物にならず、これが仮に一年目に辞められるとすれば、余計なコストが更にオンされるから、損失は700万円以上に膨らみ、会社の被害は甚大になる。
(一人当たり)700万円がパアになるかどうかの瀬戸際だから、面接時にこっちは「真剣」である。対する応募者は、仮に不採用になっても、また他社を当たれば良いだけだから、気楽なものだ。




