女子学生
3.女子学生
よって、忙しさ解消の為に自由に使える専用の「秘書・アシスタント」が要る。出来たらーーー、美人を希望。
社長のクセも呑み込んでくれて、先を読む頭の切れも必要。出来れば語学の出来る人が望ましいが、これは欲張りすぎだろうか? 難しい仕事だが、私はそんな秘書が欲しいと考えた。出来る人なら、幾ら給料をはずんでもよい。
早速募集した処、同志社大の経済学部を卒業して六ケ月目の女子学生から応募があった。新卒同然で、社会経験はまるで不足だが書類選考で良さそうに思ったので、育てようと考えた。卒業直後に大手に入社して数ヶ月で辞めた経歴があったのだが、面接する事にした。
ウチではA4数ページに渡る筆記試験を面接に先立って行う。試験問題は事前に自宅に郵送しており、回答を作って貰って、面接時に持参する。内容は、その人の「物の考え方」を試す問題。知識の有無のテストではないから、学校では解答を教わらないし、時間を掛けてやれば正解が得られるような種類のものではない。けれども、実践的なものばかり。出題は十問だが、内の二問だけを参考にここへ転記する。読者も考えて見て欲しい:
第一問:
ある日当社の地方営業所へ、ユ-ザ-から(飛び込みで)電話がかかって来た。話の内容から、有望な「引き合い」と思われた。金額は300万円位で、その営業所の月間売上の20%に相当する大きな商談となりそうだ。
貴方はそこの販売課長で、部下が五名いるとする。さて、この「タナボタ情報」を五名の内の誰に担当させるべきか? 以下の10点の解答例の中から二つに○( マル)をつけよ。どれもそれぞれ間違いとは言い切れないが、中から無理に「(一番の)正解を二つだけ」選んで下さい。それらを選んだ理由も簡単に述べなさい。
①普段から売り上げ成績が最高位の部下に回付する。
②同上、但し最下位の部下に回付する。
③公平が原則なので日頃から順序を決めていて、前回はA君に回付したから、順序として今回はB君に回付する。
④よく調べて見た結果、6ケ月前にこのユーザーを訪問した人がいた事が判明したので、その人に任せる。
⑤5人の売上成績がほぼ互角だったので、現時点で一番沢山のユ-ザ-を保有している営業員に任せる。保有数は、100/90/80/70/60であった。
⑥同上、しかし一番手持ちユ-ザ-の少ない営業員に任せる。
⑦社歴五年のベテラン販売員へ回付する。五名の社歴は5・4・3・2・1年であった。
⑧社歴一年の新人へ回付する。
⑨まじめに陰日なた無く努力をしている営業員D君は、会社の将来を考えて評価されるべきであるから、成績に拘わらず彼に任せる。
⑩E君は勤務中に喫茶店で時々サボっており、日頃から多少ルーズであるが、粘り強く注文をものにするので、E君に任せる。
第二問:
担当として自分が詰めていた商談で、顧客に見積書を提出した所、(予想外だったが)他社と競合となった。この事態に対して早速、営業員である貴方は上司へ以下の報告をした:
「課長、E社と競合です! 相手はウチより8%価格が安いです。どうすべきか、本日中に至急ご指示をお願います」とファクス※で連絡を入れた。
ファクスを読んで、課長は大いに嘆いた。嘆かせない為に、貴方はどう書くべきだったろうか? 百字以内で「正しい報告文」を書きなさい。(※当時ファックスしか通信手段が無かったものとします)
第一問の「タナボタ情報の回付」は、あたかも営業の問題であるかのように見せながら、実は「会社とは何か」の基本を応募者に問うている。これがシッカリ分かっている人でないと、正解は出来ない。社会経験の浅い人には難しいと言える。(これだけでも、(正解を教えた位に)大きなヒントです)
第二問は、あたかも(何処にでもありそうな)他社との受注競争のように見せながら、実はその人の「自律性」を(何気なく)問うている。応募者の心的内面と性格を覗いているのだ。(これも、読者の為のヒント)
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いずれの問題も(学校で習った)知識や技能を問うてはおらず、応募者の人そのものを見ようとしている。ウチの試験問題が特別に見えるかもしれないが、なに、これは採用する側にとっては常識。会社は人材を喉から手が出る程欲しいもの、その人の将来への成長性を会社は買いたいのだ。成長性を(試験問題を使って)見極めたいのである。言うではないか、「企業は人なり」と。決して「知識なり」とは言わない:
「あらゆる仕事に命を吹き込むのは、優れた人材であって、優れた戦略や知識ではない」(元GE会長:ジャック・ウエルチ)
先の二つの問題の正解は、(申し訳無いですが)敢えてここに添付しない。読者がウチへ応募して来て百点を取ったら困るから。これに類似した設問が合計で十問ある。中高年でも大抵は30~40点しか取れない。若い人なら、20点未満も多い。合格ラインは60点で、パスするのは十名の応募者の中で、1~2名程度になる。
そんな難しい試験なのに、社会経験の殆ど無い若い彼女が85点を取って、私を仰天させた。それ以前の過去最高の得点だったからで、超の付く優秀な成績。これだけで面接はもう合格の雰囲気となった。
ただちょっと引っ掛かったのは、面接試験に母親随行でやって来たからである。 面接の応接室まで付いて来た訳ではないが、母親は駐車場の車の中で面接終了まで娘を待っていた。けれどもその日ちょっとした事情があった: 会社の都合で、実は面接が午後六時からになったからだ。薄闇の迫る初秋の夕暮れ時でもあったし、キツネや追い剥ぎの出るXXX村というウチの会社の地の不利を考慮すると、さもあらんと私は好意的に納得することにした。
こうして、母親の随行を減点対象にする事なく、即決で採用を決めた。