第五百九十:泰子さんの話(487) ★小説よりも (4)
第五百九十:泰子さんの話(487) ★小説よりも (4)
私が小説よりも、好んでエッセイを読むようになったのは、歳が入ってからだ。若い頃は小説ばかり読んでいて、面白かった。けれども六十を過ぎるころから興味を失った。理由が、何となく判る気がする。小説は作家が自分の頭の中で作り上げた世界で、だから英語でフィクション(虚構)という。
何度か書いたが、自分が人の五倍くらいの人生を生きて来た感じがしている。仕事で何かを達成して歓びも感動も沢山あった。人を好きになった事も、初恋も含めて数こそ決して多くはないが、異性として女をそれなりに理解した。美化しすぎる事もないし、蔑視することもない。ついでだが、例えば有名な作家だが川端康成の小説では、男の期待値が高い為か女を美化し過ぎている。
自分の歩いてきた道を眺める時、小説を読むより自分の人生の方がもっとハラハラ・ドキドキとスリルがあったし、内容が豊かだったーーー、とそう思う。所々に、思わぬ奇妙さもラッキーな運もあった。無論、失敗も切ない悲しみも大きな後悔もあって書き切れない位だ。となれば、事実は小説より奇なりという通り、安物の小説を読むのはもう100%意味が無くなった。
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