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第五百八十六:泰子さんの話(483) ★夏の暑い日(12)

第五百八十六:泰子さんの話(483) ★夏の暑い日(12)


 覚えているが、バトバスで都内を他の観光客と一緒に遊覧した時、殆どの乗客がハッと振り返るほど抜きん出て美しい人だった。けれども、女は私に対して自分をさらけ出す事は一度もなかった気がする。

 私から女を嫌いになる理由は何一つ無かったが、惹かれる思いを残しながらも、私が社会に出て数年して私たちは別れる事になった。最後になる長い手紙を書き、丁寧にこっちから申し出た。送った長い手紙に返事は無かった。


 性格も人柄も好みも何をしたいかも最後まで私は知らなかった。絵葉書の中の美しい花を観るように感じて、私たちは何かすれ違いし、ついに私は彼女の(外見以外の)何も知らなかったといえる。綺麗でも自分の知らないものを人は心から愛する事は出来ないもののようで、遠距離恋愛の限界を感じたのである。


 歳が行きずっと後になって理解した事の一つは、互いを良く知り愛する為には「濃密な関係」が必要だという事。これは必ずしもセックスを意味しないが、互いを隔てる物理的距離は大きな障害なのだ。


 女の父親に対して何となく申し訳ない気持ちがあったのを覚えている。今の時代とは違うーーー、お借りしたお嬢さんを汚さず綺麗なままでお返した気持ちもあった。卒業後の就職先に造船所を選ばなかったから、頂いたAB規格の本が役に立つ事はなかった。これにも済まない気持ちが残った。何となくみさおを立てる気持ちがあって、以後数年私は新たな女と付き合わなかった。


 真夏のまぶしい太陽を仰ぐとき、折に触れて、山での暑かった初デートを甘酸っぱい気持ちで思い出す。女があまりに美しかったから、今でも(文通が殆どだったが)お付き合いした数年が現実だったとは思えず「あれは、夢だったかーーー」と思うのである。


お仕舞い   


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