愛の浪費
18.愛の浪費
女は独りで殻に閉じこもるようになり、横になって天井を見詰める日が多くなった:結婚以来愛する男の為と思って、人生を捧げて来た。男を好きだったのは本当だ。けれども、代わりに自分の為に使う時間は一つも無く、男に与え子に与えるばかりだったーーー。だのに、男からは二人も子を産まされた以外に、何も与えられて来なかったーーー:「私から奪うばかりだった」。
女は地団駄を踏んだ:「私の人生を返せ!」
四六時中体をさいなむ痛みは心のゆとりを奪い、女は何時も敵意を持って男を眺めた。敵意を強化する事で、痛みが紛れるかに見えた。
ひどい頭痛と腹痛で、女は額にあぶら汗を滲ませた。苦痛に歪んだ顔で「憎い!」となじりながら、いきなり男の腕にしがみついた女の目に、狂気があった。鋭い爪を立てられて皮膚から血が滲んだ。病人とは思えない恐ろしい力が、男の骨にこたえた。道成寺の清姫を思い出し、男は女に殺されるかもしれないと感じたが、殺されても仕方ないと思った。
爪を立てられた痛みが、女の肉体がいま受けつつある苦痛の大きさの何分の一かに違い無いと男は思った。
「背中をさすってやろいとう」という男の何気ない言葉尻を捕らえて、女はたちまち爆発した:「してやろう、ですって?! 今まで何十年と私は沢山の事をして上げたし愛も上げたわ。でも貴方はそれを浪費するばかりだったじゃないの! 会社を立ち上げる時も、狡く私を利用さえしたのよ!」
女の投げつける言葉に男は最初半信半疑だった。が、自身の心の細部まで眺めて、「女の言う通りだーーー」とうなづいた:女の愛を浪費し、ついに根こそぎ枯らし尽くしていた。




