第五百五十七:泰子さんの話(454) ★俳句作り
第五百五十七:泰子さんの話(454) ★俳句作り
高級老人施設Dへ入所してから、泰子さん(96)は俳句の会へ入った。施設に同好会があるのだ。泰子さんの作句はなかなか気が利いていて、ベストではなくても施設の掲示板に他の何人かの人と一緒に毎回張り出される。
泰子さんは元々無趣味で、昔からハイキングが好きでもないし、読書も編み物も「しんきくせえ!」と言ってやらない。阪神タイガースのファンで野球中継を見るのが唯一の楽しみだったが、これに俳句が加わった。俳句なんぞ「五・七・五」じゃから、どういう事はねえ、偶然に出来るもんじゃとバカにしながら始めた。
一緒に食事をする時、時々原稿を見せられて「この漢字はどう書くのじゃったかな」などと訊かれる事もある。感想を求められる事もある。こっちは俳句なぞやった事は無いのに、へんに頼りにされる。「ヒロシが俳句をやれば、私はただで教えて貰えるのにーーー」なんて世知辛い事を言うから、根拠も無しにそういう発想自体が可笑しいではないか。
とはいえ、自身で作らなくても、句の良し悪しなら分る。泰子さんに素案を見せられて、全面的にけなしては悪いから、季語が抜けているよとか、同じ句の中に魚という言葉と鮎が重なっているよとか、ここのリズムがイマイチだとか言ったりする。時には思いついて、言葉を入れ替えたりして上げる。
身内だから私の批評は遠慮がない。どうやら、むしろ先生より手厳しいらしい。
つづく




