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第五百五十五:泰子さんの話(452) ★ボランテイアの話(5)

第五百五十五:泰子さんの話(452) ★ボランテイアの話(5)


 先の淋しさの外にもう一つある:遠い昔であるが、私は恋をした。私より一つ下で彼女は同じ中学校の一年生だった。私の一方的な片想いだったが、大学になって初めて手紙を書いて打ち明けた。字の綺麗な返信を貰って、腰を抜かした。恋はその後私が大学を卒業して社会人となるまで、大変長期に続いた。人生の門出の就職祝いにパイロットの高級万年筆を贈られた。相手の親も承知していた。

 けれども、数年後結局別れた。言い訳はどうあれ、私が振ったようなものだった。


 若い時には有り勝ちで、どうこういう事件ではない。その後の彼女の消息は、接点も無く一切知る事が無かった。家柄の良い大きなお屋敷のお嬢さんだったから、自然良縁に恵まれ幸せな人生を送っているものと、勝手に何となくそう思い込んでいた。


 しかし本当は違った。その後彼女が歩んだ人生は決して幸福とは言えず平坦でもなかった。幼い子供二人を抱えての、離婚も含めて大きな苦労をしょい込んだ。苦労は続き、70を過ぎて認知症を患いながら、なおも働かざるを得なかった。経済面も含めて生涯幸福には縁が薄かった。それら詳細な事実を、自分が80近くになってから私は偶然に知った。


 教えられて、その事ばかりを考えて数ケ月の間私は大変に落ち込んだ。もはや私を認知出来ない彼女に、詫びる機会は与えられず慰めようもなかった。相手が誰であれ、困っている人へ手を差し伸べたいと私が思うようになったのは、彼女への詫びに似ている。


つづく


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