第五百四十九:泰子さんの話(446) ★打ちこわしの話(2)
第五百四十九:泰子さんの話(446) ★打ちこわしの話(2)
住む場所も替え、生涯に家も三軒建てた。これだけでも人並みでは無いが建てるお金があったからではなく、毎回配偶者が何処からか土地を探して来たから無理をして建てた。土地の狭さ広さに合わせてやったから、女が主導する設計はもう手慣れたもので、紀州日高町の農家の生まれだから、土地が無いと落ち着かないらしい。
二度目の失業中に人生を持て余し、ドイツへ乗り込んで下手な英語を振り回した。ここで運をつかんで小企業の経営者。後年再度時間を持て余し、発明もやった。売れるかどうか未だわからないが、現時点で一所懸命である。
密度から言うと、父よりは長い人生を生きた気がしている。それでも私達の人生が扇子みたいに「末広がり」になったのは良かったーーー、と配偶者は言う。まかり間違えば「ブルーシートの人だったーーー、そうならなかったのは私のお陰よ」と、配偶者は自分の功績を称えて、社内に胸像を置けと要求している。
中には辛くて泣けそうだった体験も数あったのは確かだ。一生の間によくあれこれ沢山やって来れたものと思う。話を聞くだけで人は疲れ果てるだろうし、自分も思い出すだけで目が回りそうだ。正直な感想は「人生は思っていたよりも、壮大に長い!」であって、決して短くはなかった。
つづく




