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第五百三十三:泰子さんの話(430) ★墨東綺譚の話(4)

第五百三十三:泰子さんの話(430) ★墨東綺譚の話(4)


 対して、無論時代も違うが、息子である私とその配偶者は恋愛結婚だった。母は私の配偶者に向かって女同士の気安さからか時々言った:「貴方たちは、恋愛でよかったねえーーー」。さも羨まし気に繰り返したと、私の配偶者は私へ何度か伝えた。


 もう昔の事だが、これを聞いた当時、母は夫と(もっと)親しみたかったのではないかという気がした。恋愛結婚ならば親しめる関係になれたのにーーー、と想像して慨嘆したのか。逆に言えば口にこそ出さなかったが、父の側も妻に対して似た感覚を持って居たかも知れない。

  

 先の墨東綺譚の中では、60に近い老作家と歳が半分の若いお雪との間で、男女の親しんだ心の繋がりが巧みに描かれている。熱烈ではないが、心の融けあう様子が判る。

 けれども、と言いたい。好き同士の関係になるならば、小説に描かれている情景は恋の自然な姿だから格別珍しい事ではないとも言える。比べて自分の夫婦関係と同じようだなーーー、と私は正直そう感じた。見慣れた風景なら、小説を読んで私が面白がる訳は無い。


 けれども、これを父は「自然な事」のようには見ず、羨ましく感じたのか。墨東綺譚の中に恋愛の純粋な姿を見い出し、男女間の理想的な関係を見て羨ましく感じたのかも知れない。若い時代に、父は心から相手を好きになる恋愛経験がなかったのだろうか。


つづく

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