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気のせいよ

13.気のせいよ


 販売会社の経営は競争と闘争の神経を擦り減らす世界。これは牙のあるマンモスが跋扈する太古の昔から、戦いは主としてオスと男の分野である。それがヒーチャンの為としても、本質的に愛と平和を重んじる女の世界ではない。


 既に五十の歳を幾つか越えるようになると、蓄積されたストレスと疲労が見えない所で少しずつ女の体を蝕んだ。時々酷い下痢をするようになり、耳が何度か一時的に聞こえなくなったり、頻繁に体に蕁麻疹が出るようになった。


 抱いた時、女の体が以前よりも温かく感じるのに気付いて、春先だったのに男はやたらに蒸し暑がった。「気のせいよ」と事も無げに女は応えたが、男が食い下がると、「更年期と思う」と返した。男は女に忍び寄る不安の影を感じた。


 あの時に何か手を打っておればーーー、と後日男は悔やんだ。それが病からの最終警告であったのに、仕事漬けの男の毎日は、不安の影を何処かへ押し流してしまった。


 見逃しの代償はただでは済まない。夏の真夜中、女は揺り動かして隣に寝ている男の夢を驚ろかした:点灯した明かりの下で、白い敷布団の上に血まみれになって横たわる女の姿を発見して、男は肝をつぶした。大量の下血であった。女の顔が案外平静なのを見て、男は何が起きたのか分からなかった。


 応急処置として、病院で直ぐに大量のステロイド剤が投与され、危険を脱した。原因は不明であった。三ケ月掛けて詳細な検査をした結果、「免疫異常で根治的治療法は無く、生涯治る見込みが無い」と、医者は有りのままを伝え、「強いストレスのせいだろう」と加えた。


 医者があたかもわざと意地悪な言葉を選び選び言ったように聞こえたから、しっかり者の女は信用しなかった:「ウソよ、そんな筈はない。休めば直ぐに治る」



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