第四百九十六:泰子さんの話(393) ★父の日記から(その7)神津トンネル(11)
第四百九十六:泰子さんの話(393) ★父の日記から(その7)神津トンネル(11)
(7) 一方で、部長や局長はどう考えたか: 少なくとも部長は父の現地入り調査は「魚釣り」の風をしてくれと言った位に、神経質な人だった。父の報告書の出来不出来が、何より気にかかっていた筈で、間違っても忘れる事など有り得ない。だのに自分たちをつんぼ桟敷において、内容を見せられる事無しに「頭越しに本省へ」直送されてしまった。こんな事をされて、心穏やかな上司など世界中に一人も居ない。
部長と局長は当然父を強く叱責し文句を言ったに違いない。(急いでいたからとか何とか)父は適当な弁明をしたろうが、上下を重んじる官僚の世界に相手が納得する理由など有る筈はない。更に彼らは、「報告書を本省へ送る前にもしワシらに事前に相談されておれば、トンネル案など端から否定しておったから、大阪局としても本省に対して恥をかかなくて済んだんだのにーーー」と言って、内心(ざまあ見やがれと)父に対して留飲を下げたに違いない。
仕事の出来る人間として父は大阪局内で既に認められていた。だからこそ滑走路延長の重要な企画案作りを任された。普通なら、将来部長にも、いや運が良ければ大阪局長にもなれた筈の人間だった。けれども、あにはからんや、部長と局長から「あの男は可愛げが無く食えんやつだ。何時ワシらの足元をすくうかもしれんな。今回が良い例だ。信用ならん人間だ」と烙印を押された。上司ならそう考えるのはむしろ当たり前、と私は思う。
つづく




