第四百八十二:泰子さんの話(379) ★父の日記から(その5)習字の話(5)
第四百八十二:泰子さんの話(379) ★父の日記から(その5)習字の話(5)
その頃だったと思うが、私が木曾の発電所に勤務していた昔、時々郷里の父から来る手紙が墨を使って毛筆で書かれていたのを思い出した。
何かの折に試しに部下への指示を軽い気持ちで筆(=筆ペン)で書いてみた。筆で書くと何故か自然に丁寧な書き方になってしまう。乱雑に書こうとしても乱雑になれないのが不思議だ。その頃は筆で書く習慣は珍しい時代になっていたから、これだけの事でxxxさんは字が大変上手だという事になった。
以後、香典とかちょっと改まった礼状などを、墨で書く必要が出来た時に「人に頼まれる」ようになったのである。こんな時、あわてたり苦笑したりして引き受けた。
何処かで読んだが「字は人柄を映す」というのを思い出す。ある程度真実と思う。決して能筆とか達筆と言えなくても、丁寧に読み易く書かれた文字は見ていて、誠実な人柄を感じる。その人らしい、と感じるのだ。決して上手とは言えなくても、下手な字を下手として一点一画をゆるがせにせず丁寧に書かれた文字も、素直な性質と人柄を感じる。
つづく
 




