第四百八十:泰子さんの話(377) ★父の日記から(その5)習字の話(3)
第四百八十:泰子さんの話(377) ★父の日記から(その5)習字の話(3)
その後転職し兵庫県庁へ移ってからは、発電所時代のように日々の形式的な日誌の作成などはしなかったが、むしろそれどころか大量の文書を書くようになった。起案用紙に何枚にも渡って書かなければならない事がよくあった。起案文だから多数の部課の人の目に触れ、関係の複数の上司が読むのである。読んで分かり易く文章の構成も考えて、同時に大事なのは読み易い字でなければならなかった。
日誌と違って書く時間は充分にあるから書き直しは自由に出来た。当時はワープロもないしコピーする機械も無い時代である。書いた字が綺麗でなかったものは破り捨てて書き直し、恥ずかしくない程度になるまで何度も書いては起案用紙を破り捨てた記憶がある。余りに沢山の用紙を無駄にするので気が咎めて、破り捨てるのを隠すようにしていた。
恐らく同じ職場で自分が一番用紙を消耗していたのは間違いない。けれどもこうした事が、下手ながらも自然に字を書く練習になったものと思う。達筆を目指して綺麗な字を書く練習をするというよりも、分かり易く人がすらすらと読み易い字を心掛けた。
つづく




