第四百七十七:泰子さんの話(374) ★父の日記から(その4)マラソン(5)
第四百七十七:泰子さんの話(374) ★父の日記から(その4)マラソン(5)
運動会が終わって、自宅へ帰ると母は既に帰っていて、褒めた:「運動場で待ちくたびれて、心配しとったあ。あの子はもう戻るか、もう戻るかと心待ちに待っていたら、ようよう一番ビリで戻って来たなあ。ほんによかった、よかった、安心したーーー」 そう言ってとても嬉し気に笑った。
母は私の運動場への到着を見てひどく安心し、直ぐに家に帰ったのだった。体力の乏しい私が全コース完走したのを見届けただけで、既に充分嬉しかったらしい。実は私の後に後続者が未だ30数名も残っているのを知らなかった。グラウンドを後続者無しにたった一人で一周回った私が「最後のどんビリ」に見えたし、そう勘違いしてしまったのだ。
自宅で母の勝手な勘違いを指摘し、私がふくれたのは当然だ。一番ビリどころか、五年生まで含めて半分よりは上の成績だったのに、著しく過小評価されてしまったのだ。その後何年経っても母は「一番ビリ」と思い込み続けて、私は何年も反論し続けてついに合意には達しなかった。
この子は体育は劣ると母は普段から知っていたから、その背景があって、一旦こうと思い込んだ母の誤解を解くのはなかなか不可能なもので、この歳になっても未だに私は悔しく感じている。
お仕舞い




