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第四百七十一:泰子さんの話(368) ★父の日記から(その3)本箱の思い出(6)

第四百七十一:泰子さんの話(368) ★父の日記から(その3)本箱の思い出(6)


 そんなある夜、与えられていた寺の三畳ほどの間で寝ていて夢を見た: Fが現れて自分の胸を押さえて「ここが痛くて痛くてたまらないんだよ」と私へ訴えた。今にも泣き出しそうな様相だった。目が覚めて久しぶりにFの事を思い出した:文通は途絶えているが彼は今頃どうしているのか。ひょっとしたら病気でもしているのかと、ふと思った。けれども、彼の消息を聞くにももう姫路の住所を失くしていて連絡の手立てがなかった。


 それから数日して郷里の母から手紙を受け取った:「お前が仲良くしていたFさんが死にました」

死因は書いてなかったが、「自殺したのではないか」と反射的に思った。二人で中学生時代に作品をよく読んでいたが、芥川龍之介の自殺がその頃の事件だったからだ※。Fが死ぬとしたら、自殺が一番ふさわしいという気がした。

(※筆者の息子による注釈: 芥川龍之介の自殺事件は昭和2年の事で、本文を述べる筆者が18歳の時である。当時新聞や雑誌で大きく取り上げられた)


 その後帰郷した時に母にFの死因を確かめると当時の言葉で「心臓脚気」というものだった。心臓が脚気(=足の病気)になるなんて、今の知識では荒唐無稽だが当時は本気で存在した病気だった。私が見たFの夢を聞かせると、母はすっかり驚いて「死んだ日が同じだ」といって、しばらく遠い処を見る目をした。


 当時も今も私はそんな事を信じないが、最近ドイツ文学の高橋義孝の随筆で夢の話ではなったが、死んだ人が生前無意識に自分の死を予告するような行動をとる話を二つ三つ読んだのを思い出した。Fの青白い顔や深刻な文学に傾倒する癖が、無意識に私に反射されて、「この人は将来何か起こすーーー」という風な予感を生じさせたのかもしれない。気にかかっていたからたまたま夢に見て、現実化したように感じるのかもしれない。


 つづく

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