愛情の分量
7.愛情の分量
不思議な事に、何年経っても女は男を愛して倦む事が無かった。毎日男の一挙手一投足が気になり、世話を焼きたがった。一緒に喫茶店に入れば、男のコーヒーへミルクと砂糖を調合してかき混ぜ、カップの取っ手を左向けにしてやった。男が左ぎっちょだからだ。
並んで腰を掛ける事があれば、人前であっても女は何時もさりげなく男の膝に片手を置いて接触したがった。人前でないときは、顔中を舌で舐め回して男をうるさがらせ、うるさがると体のあちこちをつねって、男が大袈裟に悲鳴を上げると、嬉しがった。
つねられる男の方でも慣れて、痛さが薄れると肌が寂しく感じるようになり、「もっとやって!」と言ったから、どっちもどっちである。
男の高校の同窓会があった時にも、自分には資格が無いのに一緒に同行したがって、無理に同行して七つ年上の同級生の女連中から白い眼を向けられた。若さに嫉妬されたからだ。女にとって何より重要なのは、男と一緒に居る事であったから、浮気と不倫を含めて男が一人で自由を楽しめるスキはなかなか見つからなかった
仕事の出張で数日家を空ける時は、男がやっと一人きりになれる貴重な時間の筈であった。が、女はそれを許さず、夜に出先からの男の電話を欲しがった。用事が済むと何時も男は電話を切ろうとするが、「貴方は、直ぐに切ろうとするんだからーーー」と、後日女は恨みがましく不平を鳴らした。
電話は用事のある時だけにするものと考えていた男は、用事の無い時でも女は電話をしたがるのを知って、そんな時女は一体何を話すのだろうと、不思議に思った。
何時も男にくっついていたがり、二人で一人前。男の愛情の量が自分のに比べて見劣りすると不平を鳴らして、蛇に化けた道成寺の清姫みたいに、男へ絡みついて放さなかった:
「私がどれだけ好きなのか、貴方には私の分量が判っていない」




