チーズ
6.チーズ
何年か経ち、「それにしても、毎晩ソウしていると飽きるなあーーー」と、ある晩寝床で男がうっかり口を滑らせた。女はこれを聞き咎め、自分のミスであるかのように責任を感じた。
出掛けた美容院で、女は実用的な解決法を学んで来た。そこに置いてある女性週刊誌を一括まとめ読みすれば、男を感動させる秘法が必ず書いてある。暗記して帰って、直ぐ実行に移した:
「良い匂いがするはずだからーー」と言って、寝床の中で嫌がる男にソコを無理矢理舐めさせた。チーズの匂いをたっぷりと嗅がされた。これが結果的に、女には色々な味わい方があると男に教え、ついに骨の髄まで屈服させた。
食いしん坊な男はよだれを流して感動したついでに、翌朝から朝食のトーストに、ジャムの外に匂いのきついチーズも必ず添える習慣になった。そういう嗜好を持つ男は、パートナーに対する愛情が一層深くなるものだ、と女は信じている風であった。
チーズの付け合せも含めて女は料理が上手である。物の片づけでも、家事や買い物にしても、何をしても手際が良かった。買い物が手早い女というのは、頭が良く決断力がある証で、好悪の感情がはっきりしている。結婚当初は多くもない給料を男が管理して必要分を毎月女へ渡していた。けれども、数ヵ月後には全額を渡すようになった。その方が家の経営が遥かに上手く行くのを、知ったからである。
そんな女の家事の切り盛りがいかにも甲斐々しかったから、男は飽かずそんな姿を眺めた。十年が過ぎても生気あふれる姿を眺めて、結婚して「良かった」と、この時男は初めて実感した。実感するのに十年単位の手間が掛かるのだから、何事に寄らず男は不器用である。




