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第四百五十五:泰子さんの話(352)  飛行神社の話(父の手帳から)(8)

第四百五十五:泰子さんの話(352)  飛行神社の話(父の手帳から)(8)


 駅から距離的に遠くはなかった筈だった。住人がもう見知らぬ他の人の家になっているかもしれないと思いながら、一軒づつ門札を確かめながら歩いた。どうにか「二宮」と判読できる古びた門札に行きあたった。

  

 下宿していた当時から十五年ばかりが過ぎていた。今も覚えているが二宮さんの喜びようはひとかたならなかった: 私を見た瞬間の嬉し気な顔、若やいだ様子。もう六十を過ぎていた筈だったが、少女のように生気に満ちて舞い上がらんばかりであった。私の来訪はそんなに待たれていたのかーーーー、とむしろ意外に感じた。自分にはそれほどの感傷はなかったからである。


 喜びようを眺めながら、このひとは戦中・戦後の物資も食料も不足な時代と、激しいインフレに見舞われた時代を、どうやって生きぬいて来たのか不思議に思った。生活手段として細々とした和裁一つしか無かったのにーーー。


 昔は色白のふくよかな顔をしていたが、顔の小じわは仕方ないとしても鼻水をすすりながら話す様子と陽に焼けた古い畳の薄暗い部屋での針仕事の暮らしぶり。女の嬉し気な様子を眺めながら、逆に自分は何とも言いようのない寒々とした風が心の中を吹き抜けてゆくような侘しさがあった。将来への希望も見えず身寄りも無さそうな様子に、女の哀れを感じた。


つづく

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