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女の要求

5.女の要求


 紀州の女には初めての恋であった。歳が七つ上と言うだけで男を敬愛し、敬愛振りは手を抜く事が無く一心不乱となり、思いつめた。手紙を寄越された男がルーズな態度でろくに返事を返さず、放置した時があった。「語学の勉強で忙しかった」と、言訳した。

 けれども、語学を優先して自分を二番目に置くのは、恋人にあるまじき冷淡と考えて、女は独りで傷ついた。食欲を失い胃痙攣を起こし、ついに血を吐いて入院した。


 赤と黄色が適当に混じった花を持って病院へ見舞った男は、恋に憔悴した女の姿を眺め、胸をつかれた。女にとって恋は全てであり、そこに一片の賢さも無かった。オレみたいな男を、それほど好きになるなんてーーー。鈍感な男に、女の見方を一変させた。

 道上寺の絵図にあった真っ赤な毒焔を吐いた清姫を思い出し、男は妙にしんみりしてしまい、焼き殺されない為には、超高速で結婚するしか手立ては無いと考えた。よって、直ちに実行に移した。


 結婚初夜、女は初めて男の胸に抱かれて、ほっとしたように漏らした:

「もうこれからは、しっかりしなくても良いのねーーー」

 四人姉妹の長女として、周りからもしっかり者と見られ、無意識に突っ張って生きて来た。頼れるものを手に入れたみたいに、女は男の胸に顔を埋めて安堵した。本来長女が継ぐべきだったのだろうが、実家は、「馬の骨」とくさした嫌味な次女が継いだ。バチが当ったのだ。


「毎晩抱いて欲しい」と、女は男へそうせがんだ。それが出来ない時には「朝まで手を離さずにいて欲しい」と寝床の中で要求した。「一生ソウして行きましょう」と、男に約束させた。

 夫婦である為にはソウしなければならないものと、男は律儀に思い込んだ。生きてゆく為には、仮に食欲が無くても毎朝朝ごはんを食べなければならないのと同じであると、理屈を考えた。


 よって、約束通り毎晩ソウした。けれども毎晩ソウすると、男は消耗して発射すべき種の在庫が時々カラになるから、カラの夜は女が眠り込むまで、背中を撫ぜ続ける事にした。そうすると、清姫が地獄に吸い込まれるようにして、女は眠りについた。


 これが日課となりクセとなり、やがて習性となって、終に二人の間で違反すべきでない法律となった。法律の効き目のお蔭で、寝床以外でも二人は何時も仲が良かったから、「アレは夫婦ではあるまい」と人が怪しんだ。



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