第四百三十五:泰子さんの話(332) つつじの開花(3)
第四百三十五:泰子さんの話(332) つつじの開花(3)
林間には所々に水たまりや浅い池がある。歩く領域に20ケ所位があり、それらの幾つかにはイノシシが寝転がった跡が見られる。同時に近隣の太い木の根元近くにドロを擦り付けた痕跡が見られる。泥浴をした後で木の幹に体を擦りつけてマッサージしているのだ。皮膚に付くダニや寄生虫をかき落としているのだろうが、幹についた黄色い泥の高さでイノシシの背高が分る。大抵は大型だ。
足跡からそれと分るが、不思議な事にイノシシは私が造った径を好んで歩く傾向がある。棘のある野ばらや笹を切り払っているから歩きやすいらしい。恩恵を受けていると思うなら、一度くらいはしおらしく出て来て私に挨拶があっても良さそうに思う。
猟師によるとイノシシは昼夜に関係無く山中で行動する聞くが、当の原生林では私が昼間歩き回るせいか、察知して彼らは「夜行性」に生活スタイルを変更したらしい。そんな訳で(猟期に)罠に掛かった個体以外に、昼間に林を自由に散策しているイノシシの姿を目撃した事はない。生きるとは人間から隠れる事なのだろう。
つづく




