第四百三十四:泰子さんの話(331) つつじの開花(2)
第四百三十四:泰子さんの話(331) つつじの開花(2)
一年を通して域内で人に出逢うのは秋の猟期も含めて精々三日程度だから、原生林は自分一人の我が物といっても、決して大袈裟ではない。
径無き森林に径を造っているのは、外ならぬ私の仕事。この習慣を始めてもう一年以上になるが、今では径の長さは5~6キロメートルに及ぶ。探検中に怪我をしたこともなく、安全第一に心掛けている。歩くときは左手に鎌、右手にノコギリである。
黄色のテープも携行して、これは目印に木に巻き付けるためだ。初期の頃は迷って(堂々巡りして)森から抜け出られなくなりかけて冷や汗をかいたこともあった。それ以来である、私がスマホを手持ちするようになったのは。今では(仮にテープもスマホも無くても)迷う事はない。一年以上も経てば土地勘が働くようになった。
森林域にイノシシが可成りの頭数が生息しているように思う。歩いていて地面が激しく掘り返されたり、爪痕や真っ黒い糞を見つけるからだ。キツネも居るが足跡の深さから推して重量が分かり、キツネ以上だ。一度行き違った猟師の話によれば、イノシシが地面を掘るのはミミズを食べるためだと聞いた。
その外に木の根や(春には)竹の子をたべるのだろうと思う。私が歩く域内に密生した竹林が三つあるが、どこも親竹は太いもので径が20センチもある。その竹の子となると、流石のイノシシも一つで満腹だろう。竹林の地面は必ず多数の堀跡が見られる。
私は蛇が怖くて大嫌いだが、案外と不思議に感じるのは森林域で蛇の姿をほとんど見ない事だ。うじゃうじゃ居そうなものだが、記憶では過去1年半の間、ほぼ毎日歩きながら遭遇は一度だけしかない。少なすぎると思う。イノシシが、マカロニみたいなつもりで食っているとしか思えない。案外好物で餌として域内で食べ切っているせいでヘビの数が激減しているのだ。お陰でヘビが嫌いな私は怖い思いをしないで済んでいる。
つづく




