第四百三十三:泰子さんの話(330) つつじの開花
第四百三十三:泰子さんの話(330) つつじの開花
先のエッセイで書いたが、雨でも降らない限り、殆ど毎日昼休みに会社の近所にある岩岡村の原生林を探検している。国有林で大木も数多くあり、域内は広い。
最大と思われる樹木は外周が3mもある大木だ。これに太さ10センチ以上もある複数のツタが絡みついている様は、生存競争で植物同士が殺し合いしているのを目の当たりに見る思いがして、凄みさえ感じる。
ツタの絡みつく力は相当なもので、木々の中にはツタに元の大木が絞め殺されて、ついに命絶えて枯らされたまま突っ立っているのが何本も見られる。絡まれても木は逃げ出す事が出来ないからで、こんな時は自分が足の有る人間で良かったと思う。それにしても、絡みついた木を枯らしてしまっては、ツタも結局生きる道を失い元も子もなくなる。一度ツタに考えをとくと訊いてみたいと思う。
今(=春期)は猟期ではないから、イノシシを獲る猟師も罠を仕掛けないから森の中で人に出逢う事もない。深い森だから幾ら歩いても万物ぴたりと鳴り静まり、四顧寂として万籟声なくという感じになる。足下で枯れ木を踏み折る音や時々聞こえる鳥の僅かな鳴き声は、むしろ寂寥の思いを深くする。この探検を趣味で初めて一年半程になるが、初期の頃は森林の圧する静寂と寂寥感が少しばかり苦痛であったが、今は慣れた。
つづく




