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馬の骨

3.馬の骨


 硬い表情の女の横顔を眺める内に、祈願の仕方が何処か熱心過ぎると、男は感じ始めた。直ぐ終わるものと思っていたのに、数分も続いたからだ。密かに、神としきりに談判しているようなのだ。連れてきた神戸の青瓢箪に、神が不服を鳴らしているらしいーーー。女の交渉事が上手く運んでないように思えて、男はヘンな気分になった。


 静けさの中で、いきなり女がパチンと拍手かしわでを打ち鳴らしたから、男は腰を抜かし掛けた。第三者には見えない火花を散らしたやり取りの中で、女の説得にどうやら神が根負けしたらしい。自分の知らない処で勝手に話がまとまった風に思えて、男はもう一度ヘンな気分になった。この時に味わった「ヘンな気分」は、その後生涯男の中に棲み続ける事になる。


 男へ向き直り、女は言い聞かせるみたいに言った:

「この神様は、とても霊験があらたかなのよ。祈願している時もし神様が不満に思ったら、神棚がぐらぐらと揺れて飾りものが畳へ落ちるわーーー、本当なのよ!」

 神戸の生まれはそんな不便な話を聞いてはなかったから、和歌山には随分と我儘な神がいるものと思った。


「ふうーん、落ちなくて幸いだったよ。もし落ちていたら、君は結婚しないつもりなのかい?」

「いいえ、何も貴方が心配しなくて良いわ。落ちたのを拾って、こっそり元の処へ戻しといて上げるからーーー。誰も見てやしない」

 確かに、女はシッカリ者であった。


 古い蜜柑農家の屋内は広くて薄暗いので見えない空間が沢山あり、油断がならない! 実はこの時、女の妹達三人がこっそり隣の部屋に忍び入り、襖の陰にぴったり身を寄せ合っていたからだ。長女が町から連れて来たメガネの痩せた青瓢箪を、襖の陰から目張り口張りして観察していた。


 六つの目をギョロ付かせて男の裏側まで覗き込み、三つの口で酷評した。中でも、初対面の人間を怪しむように睨むクセのある次女が、一番辛口である:

「アレが、町の馬の骨よーーー。スープのだしにしかならないわ」


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