第四百二十三:泰子さんの話(320) 過去を捨てる(7)
第四百二十三:泰子さんの話(320) 過去を捨てる(7)
真上の天井の蛍光灯をテイシュペーパーで清掃し始めたのである。背の高い大女であるから事務所内で大いに人目を引く行動であった。過去にこんな個性的な行動をした女は皆無である。みな昔は、個性が無かったのだろうか。
何事かと私が声を掛けると、「上からゴミが落ちて来る」と応えた。「へえ! 落ちて来るのが隕石でなくてよかったな」と私はまぜっかえした。
得体が知れないと私が感じるのは、勤務時間中に机の上に立つ事よりも、冗談に対して女がニコリともしない点である。地球人ではないと感じてしまう。
彼女は美人な部類に入るけれども、女としての関心を私は殆ど感じない。これは私が泰子さんに対するのと同じような感覚だ。自分にとって何かしっくりこないからだろう。
泰子さんもこの新入社員の女もすこしわがままかという程度で、私に危害を加えたり迷惑を与える訳では無い。そうは思いながら、私は両者には何か不思議に心惹かれる共通点がある気がする。少し度が過ぎるけれども、ひたむきに生きる心のつややかさみたいなものがある。
お仕舞い




