第四百二十二:泰子さんの話(319) 過去を捨てる(6)
第四百二十二:泰子さんの話(319) 過去を捨てる(6)
考えて見れば、こんな複雑さと高度な判断が果たして「普通の事」と言えるのだろうか。判断するのに場慣れの経験も影響すると考えるなら、過去に遭遇した(臨機応変に店を替えた)経験回数も最終判断を左右するに違いなかった。
日常生活の様々な場面で、泰子さんと付き合っていて、先のような類似の事件が頻繁に起きる。こんな時、当初私は自分の「常識」を基準にして戸惑っていたが、今はそれほど戸惑わない: 相手が異常とは決めつけずに、自らの「当たり前」を疑うクセがついたからだ。
とは言いながらも、やはり泰子さんは一種の発達障害の人だと思っている。馬鹿という意味ではなく、歳の割に今でも記憶力は良く、むしろ頭は良い。話をしていて私はよくやり込められる。
こんな泰子さんを眺めていて、「粉ものが一切嫌いで・安全靴を履けない」ウチの新入社員の女と符合するものを感じてしまう。少しばかり得体の知れない部分があるが、彼女と一緒に仕事をしながら、日が経つにつれて優秀な能力に私は舌を巻く思いをする事がある。
先般、この女が業務時間中に靴を履いたまま突然自分の机の上にスックリと立ち上がった。席が直ぐ近くの私はびっくりした。机の上に乗るなら、せめて靴は脱げよと内心で思った。裸で乗れとは言わないがーーー、もし裸で乗ったらせめてパンテイ位履けよと思うかも知れない。
つづく




