第四百二十:泰子さんの話(317) 過去を捨てる(4)
第四百二十:泰子さんの話(317) 過去を捨てる(4)
こんな事もあった: 或る日用事があって泰子さんの施設Dに寄った。お昼になって一緒にお好み焼きを食べに行こうとなった。車で店まで行くと閉まっていた。11時15分に到着したが、開店時間より少し早すぎたようだった。しかし不親切な事に、店前には営業時間が書かれてなかった。たまたま木曜日だったのでひょっとしたら本日休業かもしれないし、或いは開店時間が11時30分からなのかもしれない。この判断が付かなかった。
前々から当の店のお好み焼きを食べたかった訳で無し、特に美味しいと評判があったわけでもない。また今度次の機会に食べたらよいと考えて、仕方なく隣接する一膳めし屋へ変更して入った。私達は良いチームワークでそれぞれ好きなおかずを取り一緒に食べた。平和な時間が流れ、20分程も過ぎて食べるのに疲れ果てるような事はなかった。
あにはからんや、全体の七割半程度を食べ終わった段階で、事件が起きた。チラと離接するお好み焼き屋を窓越しに眺めたら、さっきは消えていた店内の照明がついていた。どうやら開店は11時45分だったらしい。これを知った泰子さん:「ヒロシ。さあ、お好み焼きを食べに行こう!」となった。
結果的に、二店で食べたから昼食のハシゴをした訳だ。私たちは若くはないし、むしろ小食な方だ。特に格調高い味ではなかったせいか、お好み焼き一枚を食べるのに私はのつこつした。「味がごつごつしている」と言いながら、泰子さんは一枚の1/4程度しか食べられなかった。当たり前だ。96と83の年寄り二人が、舌鼓を打ちながら合計で(一膳めしやを含めて)4人前をたいらげるならーーー、それはもうお化けの世界だろう。費用はすさまじいものではなかったが、私たちはたべるのに疲れ果てた。
つづく




