第四百十八:泰子さんの話(315) 過去を捨てる(2)
第四百十八:泰子さんの話(315) 過去を捨てる(2)
結果的に泰子さんの部屋は何時もすっきり片付いていて、余分な物はない。生活に必要な最小限度な物しかない。白い壁が殺風景に見えるので、絵でも掛けたらどうかと勧めてもその気はない。片隅に鉢植えでも置いたらどうかと勧めても、虫が湧くから嫌じゃと言う。
泰子さんが転居して大した感傷を感じずに故郷を捨てられるのも、先の「古い物を振り捨てる」考えの内なのかと思う。人としての情が無さ過ぎると感じて、泰子さんが宇宙人みたいに私は思う。
泰子さんは、友達や知り合いに対しても似たような考え方を適用している。例外を作らないのだ。例えば泰子さんは神戸のマンションに越してきて、間もなく二軒隣のAさんと知り合いになり、割に親しくお付き合いを始めた。時々一緒に食事したりするようになった。私はそんな話を聞いて、泰子さんの為に嬉しく思ったものだ。老後生活が寂しくなくて退屈紛れになると思ったからだ。
さて、先の通り泰子さんは今や介護施設Dに移って新しく俳句会に入った。そこで新しい仲間が出来て、中でも親しい友達Bさんが出来た。この時、泰子さんは先の友達のAさんを遠ざけるのである。私などAさんもBさんも友達だから、両方を大切に扱えば友達が二人になっていいと思う。けれども泰子さんはそんな風には考えない。
つづく




