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第三百九十八:泰子さんの話(295) 新しい女(6)
第三百九十八:泰子さんの話(295) 新しい女(6)
女は笑わずニコリともしなかった。人は笑いかけられたら表情が緩むものだが、女にはそれが無かった。そう感じて私はさらにおかしく思った。
「君が事務所内で小さな規律の一つを守らないのは、大目に見る事にしよう。気付かない振りをすることにする。」
「ーーーー」
「けれども、会社のルールを変更する事は出来ないんだ。全社員にルール無視が広がると困るのでね。だから現場へ降りる時は、忘れずにちゃんと履き替えるんだよ。」
「ーーーー」
「もし万が一他の社員か誰かから、クレームが起きるような事があれば、僕が防波堤になるさ、心配するな」
特別待遇な筈だが、女は最後までニコリとしなかった。感謝しているのかしていないのか、私には分からない。二時間に及んだミーテイングは終了した。
その日の午後から「キッ・キッ・キ」といいながら、女は嬉々として事務所内でハダシで仕事を開始した。呼んでも直ぐには来ない、何せ急いで靴を履かないといけないから。しょうのない女だーーー。
お仕舞い




