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第三百九十二:泰子さんの話(289)  おっくうになる(3)

第三百九十二:泰子さんの話(289)  おっくうになる(3)


 泰子さんの全財産を管理している私は、事前に概略のお金の計算もしていた: 初回入居金は泰子さんの全財産の半分程度が要る。それに加えて毎月の食事代なども含めて月々20~25万円が必要となる。泰子さんが105になると、手持ちのお金を全部使い切る勘定だ。106を超えると「出ていけ!」という訳に行くまいから、身元保証人の私が以後身だしする事になる。


 「死んだら私の(数千万円の)財産は全部ヒロシにやるからな!」と言って、公正証書まで作ってくれた親切な泰子さん。この約束は空手形で、花吹雪の如く雲散霧消してパアとなる。「ケケケケ」と、あの世から泰子さんはきっと笑うだろう。「まあ、いいっか!」と私は思った。


 見学に訪れた施設Dは、最上等だった。入居金が高いのはだてに高くは無くそれなりのサービスが付随していた。まるでホテルである。セレブな泰子さんはたちまち気に入り、軽率なほど喜んだ: 


 体操教室もあるし、将棋クラスもあるし、マージャンもあり図書室もあり、週一で元町の大丸デパートや西神中央駅広場まで送り迎えする施設のミニバスさえ定期運航されている。月一で定期音楽会もある。退屈することは無さそうだ。


 楽しめるのがこの先たった数年であっても数ケ月であっても、泰子さん、命はこの世限り、楽しまばや! 特に食事が毎回二種類用意されて、何れか好みを選べるのが滅法気に入った。無論、泰子さんが施設を気に入るものと、私には事前の自信があった。

 地理的にも、ここなら週一で今まで通り私が一緒に外食に連れ出すことが出来るのもよかった。


 施設を見学して一人用の部屋は二種類あった。それぞれ電子レンジがあるミニキッチン付きだったが、敢えて(私の勧めで)「広めの部屋」を選んだ。泰子さんの人生は一刻一刻と過ぎていて、その一瞬の積み重ねこそ全生涯と想えば、広い空間は大切と思った。


 狭い方なら105歳できっちり遺産を使い切る。が、広めの方は102歳までの計算になるなーーーと内心で高等数学を解きながら、私は再度「まあ、いいっか!」と考えた。自分が幼い時代に出逢ったスラリと素敵だった泰子さんの姿を、不思議に私は生涯忘れる事が無いようだ。これが愛というものだろうか。


 泰子さんはまるで子供だ。施設への引っ越しと入居は手続きもあって1ケ月先になるのだが、新しい場所へ遠足に出かけるみたいに、泰子さんは今からルンルンである: 「ヒロシ、部屋にしつらえるベットと冷蔵庫を、次の日曜日に一緒に買いに行こう!」


お仕舞い

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