第三百八十四話:泰子さんの話(281) いとこさん(3)
第三百八十四話:泰子さんの話(281) いとこさん(3)
今回M子から一つ悲しい話を聞かされた:Y子とM子はいとこ同士でしかも同い年だった、約5年前といえば二人が75~6の歳の時だった。住居が互いに遠方だったが、たまたま電話で話をする機会があったらしい。
元恋人のY子はその2年ほど前から認知症の初期兆候が始まっていて、本人にはその自覚があった。
「こんな歳だから、もう仕事を探しても殆どないのよ。でもね、今の職場は人の頭数され揃えば良いような職場だから、雇ってくれたのよ。若い同僚からY子さんは直ぐに忘れて何度も同じことを訊くし、仕事にミスが多いって苦情を言われ通しよーーー」と、電話口でY子はM子へ話した。
元恋人のY子の認知症がそのころから徐々に始まったようだと、M子は私に説明したかったようだ。
私には残酷な話だった: 認知症の事よりも、自身に認知症の自覚がありながら75になってさえ数少ない働き口をあさらなければならなかった。Y子の生活の苦しさを知り、私は胸が潰れる思いがした。30過ぎに離婚して以来男女二人の子供を育て、幼稚園の先生の仕事を定年で退きはしたが、女の細腕で経済的に苦しく生涯ついに報われる事が無かった。
歳から言えばY子の男の子はもう50近い筈だ。75で働き口を探す母親を経済的に助けられなかったのかーーー、怖くて私はM子に詳しくよう訊かなかった。訊かなくても分かる気がして暗い気持ちになり、私は黙っていた。札幌市内で入所していると聞く施設に出向き、私が何処の誰だか認知されないとしても、この手でY子を抱きしめてやりたいと思った。
そんな事を感じながら、(資産家の)M子と今もメル友を続けている。少女時代はサッカリンやハッタイコを嗜んだそうだが、今は何のお薬も服用せず血液検査はすべてベストよ、とM子は自慢している。元恋人のY子の哀れさとの大きな落差を想いつつ、泰子さんみたいにM子は私より長生きしそうだと思った。
お仕舞い




