第三百八十一話:泰子さんの話(278) 寂しさ(3)
第三百八十一話:泰子さんの話(278) 寂しさ(3)
無論私の配偶者の事も訊かれた。M子は「貴方のような人なら、奥さんは結婚して幸せだった」と羨まし気に私へ言った。が、私は賛成しなかった:「(否応なく参加させられた)会社経営という強い精神的ストレスの為に難病にさせてしまった」と私は思っている。
夫が普通のサラリーマンならこんなことは決して起きなかった筈で、遥かに幸せな女の人生だったに違いない。私は臍を噛む思いをしている。人生に目的や目標があり、夫婦だからとしてそれに協力させられる人は、必ずしも幸せとは限らない。私はそう考えている。
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意図した訳では無かったが、泰子さんを含めて、全て夫を亡くした未亡人(こんな言葉はもう死語だろうが)達を一手に引き受けるみたいな結果になっている。私の配偶者は未亡人ではないけれども、(体調が良くないので)日頃優しく接している。若い女性にさっぱり縁がなく、相手が全て後期高齢者というのは残念だが、仕方がない。
若い女性と付き合いたいかのような書き方をしたが、本音は必ずしもそうではない。自分と同年配の女性と付き合うのは、何か気持ちが落ち着く。一般に女は男よりも気持ちに正直な処がある。心が通い合ってほのぼのとした気持ちになり、どの彼女に対しても好意を感じている。同じ時代の空気を吸って来たという気持ちもあるからだろう。サッカリン(=昔の甘味料)がどうだったとか、省線電車がーーーの話になると、一気に昭和20年代に戻ってしまう。
話をしたりメールを交わしていると、死んだ夫との夫婦仲を含めて女性ならではの悲しみや不幸な気持ちを感じて、心が傷む事もある。メールするにも会話をする時も私の側は、自分の事(=男の人生)を語るよりも、泰子さんの話を持ち出してすることが多い。決していわゆる「おとこ風」を吹かせないようにしている。
彼女たちにとって、多分私は男でも女でもない中性に見えていると思う、だから心の扉を開けてくれるのだろうか。一緒にホテルに行く事はないが、落ち着いたそんな男女関係も決して悪くはない人生のように感じている。
お仕舞い




