第三百七十八話:泰子さんの話(276) 三日目の栄養失調の女(7)
第三百七十八話:泰子さんの話(276) 三日目の栄養失調の女(7)
新人の研修をする時に私の講義は大学とは違って、相手が内容を理解しようがしまいが(時間が来れば)お仕舞いにする、とはしていない。相手が「分かり切る」まで手を抜かず辛抱強く付き合う。諦めて途中で投げる事はせず、分からなければ、もっと分かりやすい言葉や例を引きながら、丁寧に何度も初めからやり直すのである。毎回そうだ。
私の説明は他の複数の講師よりも、生徒に寄り添っているのは確かだろう。或いは、生徒が分からない処が、こっちに良く分かると言えばいいだろうか。若い女の胸に、私の指導が肉親の愛情と映るのだろうか。研修で教えながら、ふとそんな気のする事がある。
栄養失調と175センチの標高が高い点を除けば、知識の吸収の良さと語学力を眺めて思うのは、ウチは案外と「よい拾い物をした」のかも知れない。拾って来た猫が、猫とばかり思っていたら、あにはからんや虎の子だったのかも知れない。女を、本気で「育てよう」と私は改めて決心した。女はますます私を父親と思うのだろうか。
種類に関係なく女好きの私とした事が、入社以来ただの一度も彼女に対して「女」を感じた事がない。好意は持ちつつも全く不思議な事で、確かにヘンだ。ひょっとしたら、こっちも本当の父親になってしまったのだろうか。
お仕舞い




