第三百七十三話:泰子さんの話(271) 三日目の栄養失調の女(2)
第三百七十三話:泰子さんの話(271) 三日目の栄養失調の女(2)
3時頃になったが、テイータイムは無しで、事務所から倉庫の修理現場へ一緒に降りた。ボルトM16を10本ほど力一杯締めさせたから、油で手を汚しながら女はへとへとになった。新しい格言を女へ教えた:「世の中で、ボルト締めは最も大変な作業の一つなんだ!」
引き続いて、10kgほどの鉄の塊を鉄板の床に置かせて、ワイヤーで引っ張って滑らさせた。5~6回させた。引っ張る力を測りながらさせたのは、摩擦係数の測定をさせる為であった。鉄板の上で滑らせるのとステンレス鋼鈑の上で滑らせた時の違いを実験させた。だから延べ10回になる。全てをノートさせて、その場で平均値をレポートに纏めさせた。
一通り全部の作業が終了した時に女が片手をかざした。「ホラ、はがれなかったわ!」と立体的マニキュアを私に誇示した。マニキュアを眺めながら、この女は一体全体全く何も「こたえてなかった」んだなーーーと、少しばかり内心ガッカリした。指導するだけで、こっちはもう疲れ果てていた。
倉庫から事務室へ戻り、講義と実験の内容をメモしたノートを「見せよ」と言ったら、ちゃんと全て綺麗に記載してあった。定時は6時であるが残業させるほどではなかった。私は社長だから五時半ごろに退社する習わしである。退社間際に女の机のそばを歩きながら声を掛けた:
「ちゃんと明日も、会社へ来るんだぞ!」
来ない可能性が60%はあると心配したからだ。
「ハイ、九時までに来ます!」と憔悴した色も見せず、女は張り切って応えた。
似た鍛錬が以後数日間続き、帰り際の先のこっちの声掛けと女の呼応ぶりは、一字一句変化せずに毎夕繰り返された。
つづく




